イカシイコカナ

第一話「二人」










高校の入学式の日。
舞い散る桜の花びらと、これから始まる高校生活に期待と不安を抱く生徒達。

そんな中・・・



「きっみたっか君♪」
まるで花のような笑顔を浮かべる少女は、嬉しそうに少年の名前を呼んだ。が、
「・・・・。」
少年は少女とは正反対に憂いのある表情で窓の外を見ていた。
「シカト〜?ひっどーい。」
少女は可愛らしい声を出して少年の目の前に立つ。

「・・・えっと・・・安川さん?」
少年は鬱陶しいという感情を隠すこともなく、少女を見た。
少女はやっと少年の視界に入ったことを喜ぶように、一層笑みを深めた。

「『安川さん』なんてやめてよ〜。み・な・と。OK?」
『お〜!!安川大胆〜!!』
『すごいアタック・・・美那人、井垣君高(いがき きみたか)に惚れてんのか〜。』
クラスメイトが盛り上がる中、少女は外野を気にすることなく続けた。

「ね、君高くん。美那人って呼んでv」
にっこりと微笑み、腕に絡み付いてくる少女に少年は嫌悪を示した。
「・・・なんでだよ。離れろっ!」
少年に手を振り払われ、少女は残念そうな顔をした。

少年は自分の不幸を呪い、堪忍袋の緒が切れそうになるのを必死に押さえた。




少年の名前は井垣君高といった。

君高はごく普通の生徒であり、入学式も終わって教室に入ったら急に少女に抱きつかれたのだ。
女子に慣れているとは決していえない君高は、突然のことに戸惑った。

少女の名前は安川美那人だと名乗った。

相手は君高のことを知っているらしいが、君高には聞き覚えがないし全くわからない。
しかし彼の横で騒がしくする少女は、間違いなく自分の苦手なタイプであるということはよくわかった。



「だいたいなんで俺の事知ってんだよ。俺はお前なんかしらねーぞ。」
君高は溜め息をつきながら言うと、美那人は、意地の悪い笑みを浮かべた。
「なんで貴方の事知ってるか教えてあげよっか?」
「・・・・なんでだ?」
君高は少し緊張しながらもじっと美那人を見つめる。



「・・・・秘密v」

ブチッ

笑顔で言われた言葉に、君高の堪忍袋の緒は切れた。


「お前なぁ!!いい加減にしろよ!!!俺はお前のことを全然知らないから聞いてるんだぞ!!」
君高の怒鳴り声に慌てる周りとは対照的に、美那人は声を立てて笑っていた。
「そんな怒っちゃいやだなぁ。」
美那人は笑いながら君高の肩に触れようとしたが、君高は掃った。

美那人は苦笑して、覗き込むように首を傾ける。
「ねぇ。本当に覚えてないの?」
「・・・・・知らねぇよ。」
美那人の視線から逃げるように、君高の視線が窓の外へ行く。


そんな君高に、美那人は溜息をついてから言った。
「しょうがないなぁ。教えてあげるよ。」
「・・・・・・・・」
君高は疑うような目で美那人を見たが、彼女は微笑むだけだった。
そして美那人は君高の耳元で囁いた。




『昔ちゅーしたんだよ。』




「・・・・・・・・。」
君高は完全に固まった。

「あらら固まっちゃって〜。でもホントだよ。私達ちゅーした仲ですからv」
教室のいた生徒全員が美那人の発言に驚く。
「ホントなの!?」
「うんv」


「・・・・おい安川。」
地の底からのような声を聞いても、美那人の笑顔は崩れない。
「も〜、君高くん、み、な、と。」
周りの人はヒューヒューなど言われる。が、君高はもうそんなのことは気にしなかった。

「・・・・・それは・・・」
「もちろん口と口ですよv」
『キャ〜!!!』
女子たちが黄色い悲鳴を出す。君高の顔は真っ青になった。

「・・・・本当なのか?」
君高は本当に信じたくなかった。
記憶にもない少女と、しかも苦手と感じている少女とキスをしたなど。

「嘘をついて何が得なんですか。本当に決まってるでしょ。」
はっきりとした言葉に君高は地の底に落とされた気分になった。
正直、泣きたい。


一体何故自分は少女のことを思い出せないのだろうか?
嫌な思い出を抹消したとか?・・・・ありえる。


「君高くんっ」
もしかしたら思い出したくないかもしれない、と君高は正直に思った。

「・・・何だよ?」
「これからよろしくねv」
美那人は満面の笑みでそう言った。


しかし君高にはそれの笑みが天使の笑顔でなく小悪魔の笑顔にしか見えなかった。










(2005/12/15 改正)





























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