イカシイコカナ

第三話「失われた記憶」










入学から一ヶ月。徐々に学校生活に慣れてきた頃のこと。
青空の下にボールの蹴る音と人の呼んでいる声が聞こえる。


君高はグラウンドにいた。


君高はボールを宙に上げて、何度が蹴る。
リフティングだ。
「おっ、井垣上手いなぁ。」
先輩に注目されながらも君高はボールに集中する。
インサイドに当てたり、かかとに当てたりする。

ふと昨日の放課後、サッカー部の仮入部へ行こうとする俺に安川が言った言葉を思い出す。




『サッカーまだ続けてるの?』

サッカーを始めたのはまだ小学生の頃だった。


「なんでお前が知ってるんだよ!」

ボソリと呟くと、君高は思いっきり壁に向けて蹴った。
バシッと壁にボールのあとがつく。
しかし君高の気分はそれだけでは晴れない。

一体美那人は自分をどこまで知っているのか・・・。



「なに怒ってんの〜?仮入なのに気合はいってるし〜。」

背後から声に、君高のもやもやした気分はイライラへと変わった。

「・・・なんでお前がいるんだよ。」
君高はいつもより機嫌が悪そうに振り返って睨みつける。
しかし美那人はフェンスに寄りかかって怖がっている素振りも見せない。
そこにいたサッカー部員たちは二人の微妙な空気に帰りたいと思い始めた。
二人はすでに学校の誰もに知られているのだ。

「いちゃダメ?大丈夫。別に邪魔しないから。安心して。」
いつもの綺麗な笑顔を美那人はする。
が、君高にはその笑顔が胡散臭く感じたので疑念の目を向けた。

美那人はそれを気にせず転がったサッカーボールを見た。
「・・・・うまくなったね。昔はちょっと下手だったのに。」
君高は一瞬動揺して美那人を見た。彼女は君高の反応を見て楽しんでいる。

「・・・・別に。それよりさっさと帰れ。ここボール飛んでくるぞ。」
何故下手だったことまで知っているのか気分が悪かった。
「わ〜vv私の身を案じてくれたのねv嬉しいわV」
そんな君高を知ってか知らずか美那人はいつもの調子でいる。
君高は「消えろ。」と言いたい気持ちをぐっと堪えて、溜め息をついた。




この一ヶ月、君高は疲れ果てていた。

美那人につけまわされ、クラスでは冷やかされ、親友の達也にからかわれる。
おまけに美那人は時々昔のことを言う。君高でさえ忘れかけている思い出まで。
それがなんだかものすごくむかつく。


・・・・昔の俺を見られたくない・・・・・


「・・・・君高くん?どうしたの?気分悪いの?」
黙り込んでしまった君高に、美那人は顔を覗き込んだ。
「安川・・・」
顔と顔との距離は10センチほどの危険な距離に、君高は美那人の肩を押して引き離した。

「も〜美那人って呼んでって言ってるのに!」
美那人が再び近づいてきたため、君高は溜め息まじりに言う。
「わかったよ。」


「美那人。」


そう言った瞬間、美那人は目を見開き静止した。

瞳は揺れ、とても動揺している。
表情は悲しみや驚き、そして愛しさが複雑に交じり合っていた。


その表情に、君高は可笑しいくらいに動揺した。
「・・・・や、安川?」
「何?」
呼んだ声に、美那人はいつものように愛嬌のある顔で答えた。
ついさっきのような顔はどこにも見あたらない。
まるで夢でも見ていたかのようだ。

「君高くん、私帰るね!練習頑張れ〜!」
「お、おぅ・・・」
そう言って美那人はグラウンドを出て行ってしまった。
さっきの表情が気にかかったが、君高はそれを頭から追いやって練習に戻った。











(2005/12/24 改正)





























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