ザァァァァァァァと音がする。
それしか音は聞こえない。視界は真っ暗。
心地良い音だ。一定なその音を聞いているとなんだか眠たくなってくる。
しかしお腹が弱々しい音を出すので目を開き、大の字に寝転んでいた体を起こす。
冷蔵庫に何か残ってたっけ?

立ち上がり台所へ行こうとしたが立ち止まって窓を凝視した。
細かい糸が延々と重力に逆らわず落ちていく。気が変わって窓の近くに行く。
少し窓が曇っていて外が見えないので手で拭いたが水滴が窓にいっぱいついているのでまだ見えにくいが仕方ない。

別に何ら変わった風景ではない。裏の家の小さな庭が見える。
そういえば夫婦と子供二人が住んでいるらしい。
朝、時々ランドセルを背負っている兄弟と思われる子がはしゃぎながら歩いているのを見る。
小さな庭にある木や草たちは酷い雨のせいで葉が重く感じるがきっと雨に喜んでいるのだろう。

そのままぼんやりを見ていると、あることを思い出し、つい頬が緩んでしまった。
誰もいない部屋で微笑している私って気持ち悪いと思いつつ頬が緩むのを止められない。
それは、確かこんな雨の日だった―――――












こんな雨の日に









その日は仕事がなくって、寂しいけど一人で買い物に行っていた。
それで突然雨が降ってきた。天気予報を見ていない私を呪った。
通り雨だと思って一時間くらい喫茶店で時間を潰したけど雨の勢いは止まる事はなかった。
昼からずっと買い物もしたし、いい加減疲れたから帰りたかった。

もう濡れて帰ろう。

そう決心して喫茶店を飛び出した。けど家までは二十分くらいかかる。
バスもないし、電車だってあるわけない。おまけに少し休める屋根もない。
ひたすら小走りでいるしかなくって、バックはつい最近買ったものだから濡らすのが嫌で抱きしめていた。

なんだか自分が小走りでいるのが馬鹿らしくなってどうせ濡れるんだからと思ってゆっくり歩くことにした。
服はべっとりと肌につくが体温があるためそれは生暖かく気持ち悪い。
けど、当たる雨は少し痛いが気持ちいい。なんか洗われる感じ。
髪もべっとり顔に張り付く。目を瞑ると不思議な感覚になる。
濡れるのも結構楽しいかもと思い私は自然と微笑んでいた。

しかし、急に雨が止んだ。
いや、目の前には雨が降っている。・・・・・?
「風邪ひかない?」
少し幼さの交じった声。それは後ろから聞こえた。
驚いて勢いよく振り向いたため髪についた雨水が当たったようでワイシャツに染みができた。
学生鞄にワイシャツ。そして赤いネクタイに紺色のズボン。
・・・・・・どう見ても高校生よね。
自分に確認を取るためにそう思った。その高校生は私より少し背が高く、見上げると優しく微笑んだ顔が見えた。

「・・・・・私は別に失恋して雨に当たってるわけじゃないわよ?」
高校生は一瞬目をまんまるにして驚いたがすぐにくすくすと笑い始めた。
「おねーさん面白いね。」
「どうも。」
私はべっとり顔にくっついた前髪をかきあげた。
やはりビニール傘は二人が入るには小さい。しかし高校生は私を優先してくれてるみたいで彼のバックが雨に濡れて黒ずんでいくのが見えた。
「・・・・私は別にいいから。貴方濡れるでしょ?」
「じゃあもうちょっと近くに寄ってくれる?」
高校生は屈託の無い笑顔で言う。なかなか喰えない子らしい。

「このごろの子は万年発情期なのかしら。」
私が少し高校生に近づいた。高校生は少し意外そうな顔をしたがまだ笑顔になる。
「健全な男子ならみんなそうでしょ?」
可愛らしい笑顔だ。こちらの心が癒されるような、そんな笑顔。
しかしその笑顔が興味を持つ顔に変わり、私をじっと見つめてきた。
「水の滴る良い女ってやつかな。」
「ずぶ濡れで髪もばさばさでメイクも落ちてる年上女性にその言葉は嫌味よ。」
すぐに切り返してやると高校生はくすくすと笑う。よく笑う子だなぁ。

と、いうか私はなんでこんな見ず知らずの高校生としゃべってるのかしら。
そんなことより帰ってシャワー浴びたほうが健康にいい。
「じゃあさようなら。」
私はそう言って傘から出た。が、腕を掴まれて立ち止まる。
「・・・・何?」
「名前くらい教えてよ、面白いおねーさん。」
高校生はにこっと笑う。
私が雨に濡れているのも自分が私の雨でびしょびしょの腕を掴んでいるのも気にしていないらしい。

「・・・・・今度会えたらね。」
私はそう言ってやんわり高校生の手を解き、走って家に帰った。その際、後ろは振り向かなかった。
もう二度と会うことなんてないとわかっていてそう言ったのは自分なのに、なんだかずっと頭の片隅にそのことがひっかかっていた。
それを忘れたふりをすることはかろうじてできたけど。


そして二週間後・・・・・

会社から帰る途中、おねーさんと聞き覚えのある声を聞き、私は驚きながらも振り向いた。
後ろには、前会った時と変わらぬ屈託の無い笑顔があった。
「おねーさん、明日暇?」
明日は土曜日だ。が、残念ながら土曜出勤しなくてはならない。
「だめ。」
「えー。」
「忙しいからね。」
「ケチ。」
高校生は拗ねた顔をする。なんか可愛い。

「けど、明後日ならいいわ。」
高校生の顔がぱっと明るくなる。そして俺コーイチ!と大声で言った。
「私は梨佳子。よろしくコーイチ君。」
「よろしく、リカコさん。」
私が初めて彼に笑顔を見せた瞬間だった。





やっと窓から離れ、冷蔵庫へ行く。すると、呼び鈴が鳴ってしまい冷蔵庫は結局開けられなかった。
「はーい。」
ドアを開けると予想していた通り、あの笑顔。
「ひどい雨で大変だったでしょ。」
「梨佳子さんのためならなんのその!」
「・・・・調子のいい・・・・ほら、入りな孝一。」
「はーい。」

それは外は酷い雨だけど心は温かい日曜日の午後の出来事。





































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