あの鮮明に残る映像は時がいくら経っても褪せはしないだろう。


私が貴方に心を奪われた瞬間。















セピア色の恋模様





もう夏は過ぎたというのに体育館の中は蒸し暑い。
ジャージは腕まくりをしているし、部員も半袖よりも袖なしが多かった。
動き回ったためか髪が乱れていたので1回外して結びなおす。
ピンもきっちり止めて、気合いを入れなおしてから小走りで相良(さがら)のところへ行く。

「相良、ちょっといい?」
後輩の指導をしている彼に声をかけるとちょっと待て、と手で合図される。
私は少し疲れたいたので壁に寄りかかって待つことにした。
目を閉じると部員たちが作り出す音が聞こえる。

バスケットシューズと床が擦れる音。
部員のかけ声。
そして少しの笑い声。

このごろはぼんやりする暇が少ないが、こうやって音を聞くだけでも心が和む。
こんな暑苦しくて、むしむししているのになぁと自分でも笑ってしまう。

「絢子(あやこ)、大丈夫か?」
声にびっくりして目を開くと私を覗き込んでいる相良がいた。
「あっ、ごめんごめん。ついぼーっとしちゃって。」
壁から背中を外し、持っていた書類を相良に見せる。
「来月にある中学の試合の申し込み。メンバーとか間違いないよね?」
相良は数秒間、書類に目を走らせる。

ぼんやりと相良の顔を眺める。
バスケットで邪魔になるためか、彼の黒髪が肩より先にいったのを見た事はない。
真剣に書類を見るこげ茶の瞳はとっても綺麗で、女の私が羨ましく思うくらい。
後輩指導ばかりだったからか、他の部員は汗だくなのに、彼は一人爽やかな感じがした。

「大丈夫だな。」
「あぁ、よかった。じゃあ顧問にハンコもらって、届けてくるね。」
顧問の高木先生が職員室に行く所をさっき見かけたことを思い出した。たぶんまだ職員室にいるよね?

続いて提出場所までの地理を思い出していると、
「悪いな、助かる。」
その言葉は早口だし、いつもの決まった台詞だとわかっているけどやっぱり嬉しい。
「いーえ。それよりも後輩指導頑張ってね。」
少し高い相良の肩を容赦なくベシベシ叩いて、背を向けて職員室に行こうと思った。
が、勢いが良すぎたのか前に転びそうになった。

「どわっ!」

「・・・・お前それ女の叫び声じゃねぇだろ。」
呆れたような声が上から降ってくる。
お腹の部分に腕の感触がするということは相良の片腕で支えられたらしい。
心拍数が上がっているのを無視するように、私は自分の力で立って相良を見る。

「それは女の子に対して失礼よ。」
「色気もなんもないんだな、お前は。」
呆れた視線が私に注がれる。あ、なんか悔しい。
「・・・・徹夜でもしたのか?動きが鈍いぞ、敏腕マネージャー。」
「ご心配なく、相良部長。それよりも後輩のことを心配したらいかが?」
少し話したりしただけで私が徹夜して疲れていることを気付かれるのが嬉しいようで悔しい。



私は中高一貫である伊月学園男子バスケット部のマネージャーを5年もやっているのだ。そのため相良とも5年の付き合い。
相良が中学の副部長になってからというもの、私と相良は事務のことでコンビを組んでいた。
だから相手の些細な事でも感じ取ってしまうのはお互い様。

相良が今年部長になってからは負担を減らそうと頑張っているが、大学受験も来年に控えているわけで。
昨日の夜も部活で疲れて帰ってきてから少し寝て、勉強したり自分の時間を楽しんでいたのだ。
今日の授業はなんとか乗り切ったが、放課後は部活で忙しいし体力がなくなってきているのは事実だ。



「お前、大丈夫か?2年の浅野にやらせればいいじゃないか。」
「相良が私の心配なんて珍しいわね?大丈夫よ、これくらい。」
茶化すように言ってみたが、相良には通用しないらしく、気に食わないという顔で私を見た。


2年の浅野美紀は私の後輩マネージャーである。
今は私が事務的なことが多いからテーピングとか医療関係を任せているのだが、どうも私は苦手なのだ。
ギャル系、とでも言えばいいのだろうか、流行が大好きで、仕事に対して怠慢。時間にはルーズ。

どう見ても男目当てにマネージャーになっているように思えてならない。
かわいい容姿をしているから部員にちやほやされたいと思っているように見えてならない。
けど、それは私の女の嫉妬という色眼鏡があるのかもしれないし、実害は今のところ出ていない。
それも私ともう一人のマネージャーである4年の槇乃(まきの)ちゃんがフォローしているからであるが。

愚痴を言っても始まらないし、あの子は使えないとハナから思っているため頼ってもいない。

と、部長である相良に言えるわけがない。
これはマネの中の問題であるから。

「そういうことじゃなくて、お前こそ後輩指導したらどうなんだと言っているんだよ。
一緒に連れて行って場所くらい覚えさせたほうがいいんじゃないか?」
真剣に言われたら、わかったとしか言いようがない。
徹夜した私にあの子の相手はとてもきついとは言えない。

相良と別れ、小さく溜息をつきながら職員室へ向かった。




「浅野さん、」
練習も終盤に入った頃、選手は練習に没頭するためマネージャーも少しは手が開く。
「なんですかー?」
甘ったるい返答に私の心はもうギブアップを訴えていた。
こういう流行が好きな子は基本的に苦手なのだ。
私はお面を被ったつもりでにっこりと笑って書類を見せる。

「中学の試合が来月にあるでしょ?その申し込みに行くんだけど、これからのためにも一緒に行かない?」
「えー、美紀これからデートなんですけど。ちょっと無理ですー。」
マニキュアを塗った爪が体育館のライトでキラキラと光る。あぁ、もう無理。
「じゃあ今度の試合の申し込みは行こうね。」
「はーい。」
返事だけはいいのね。この前もそう返事してドリンク運んでくれなかったけど。










「絢子先輩は優しすぎますよ!もう私腹が立って仕方ないんですから!!」
選手はもう部室で着替えている間、私と槇乃ちゃんは体育館で洗濯するゼッケンを分けていた。
浅野さんは練習が終ると同時に帰ってしまった。
槇乃ちゃんは私よりも浅野さんが気に入らないようで、喋ると怒ってしまうのでなるべく話していない。
一度がつんと言った方がいいと槇乃ちゃんは主張するが、私は我慢しろと言っている。

正直、私は事務的なことと部員の面倒に手一杯。
槇乃ちゃんだって事務に追われる私の代わりにタイムをやったり、もう引退の私は事務の仕事を教えたりと忙しい。
飾りなのかもしれないが、浅野さんが医務をやってくれていることは助かっているのだ。

彼女の性格ががつんと言った所で変わるのかも怪しい。むしろ復讐してくるに違いない。
そういうことを考えると、我慢するのが一番最善策だと思っている・・・・けど、

「私が引退しちゃったら槇乃ちゃん辛いよねー・・・。」
「・・・・・もう引退のこと言わないでくださいよ!」
槇乃ちゃんはさっきまでの怒りをどこかに飛ばしたように、しょんぼりとする。

私も引退なのだ。今のところ勉強は上の下というところを保てているが、そんな甘いわけではない。
来年になれば大学受験に突っ走るしかない。でも私が抜けて槇乃ちゃんと浅野さんだけになれば相当大変だろう。
やっぱり浅野さんにはしっかりしてもらわないとなぁとぼんやり思いながらゼッケンを袋に入れた。










それから、私はなるたけ浅野さんに用事を頼んだ。
ドリンクだったり、タオルだったり、時には槇乃ちゃんに言ってタイムを計らせたりもした。
けど、言われなければ何もしない。気が利かない。
部活に出るたび浅野さんの高飛車オーラに体力を奪われる。
そして秋ともなると秋季の試合も多くなる。けれど勉強もおろそかに出来ない。
板ばさみに合いながらも、私はなんとか部活に出ていた。



少し休憩してもいいだろうと思って体育館へ続く階段に座り、スポーツドリンクを飲む。
はぁ、と深い溜息を吐いていると足音が聞こえた。
「相良!あんた練習は?!」
相良は驚いている私がおかしいのか、薄く笑う。
「次期部長に任せてみた。ちょっと休憩。お前も?」
「うん、気が合うね。」
相良も私の横に座る。

「・・・・相良、勉強どう?」
「ん〜、微妙だな。平均点以上はなんとか取ってるけど危うい。」
彼らしい分析に私は苦笑する。
今はジャージで見えないけど、引き締まった体に190近い長身。無駄な肉なんてないから見た目もスマート。
顔だって悪くないし、バスケ馬鹿なためにかわいい女の子も振られていった。
私はそんな一人になりたくなくて、彼の隣に立つことを決めた。

「でも、あと少ししかバスケできないんだからさ、楽しんだ方がいいと思うよ?」
「サンキュ。」
照れることなく、真剣に言う相良。
「まぁ私もなんとかサポートしますから。」
私が笑うと、相良も苦笑する。

「バカ、もうこれ以上ないほどサポートしてもらってるよ。後輩指導と自分の練習が存分にできるのもお前のおかげだしな。」
思ってもみない言葉に、私は喜びを感じる前にきょとんとしてしまった。
そんな私に相良は拗ねたような顔をする。
「なんだよ、せっかく誉めてやったのに。」
「・・・・あ、ありがとう。」

疲れもどこかに吹っ飛んでしまった。
今までこんなに辛くて、苦しくて、もう嫌になってきた気持ちが薄れていく。
相良が私の働きで助かっていると思うだけで、やる気は何倍にも膨れ上がる。

あぁ、私マネージャーやっていてよかった。

そう心から思えて、元気が出た。

「よし、私頑張るよ!ありがとう、相良!」
私は上機嫌で階段を駆け上り、体育館に入った。



「・・・・バカ。」
そう言って相良が嬉しそうに笑ったことを私は知る由もなかった。










「上機嫌だね、絢子。」
5年のエースである片瀬にテーピングをしていると、そう言われた。
「・・・・やっぱりそう見える?」
私は相良に誉められた事の喜びが一週間持続していた。
にこにこしながらテーピングする私が奇妙らしく、片瀬は不審な目で私を見る。

すると私にしか聞こえない声でこっそりと言う。
「もしかして・・・相良となんかあったのか?」
「へ?!」
動揺のせいで私の手元が狂い、テープでたるむ。
「図星か。」
にやにやと笑う片瀬に私は弱く睨み返すことしかできなかった。

片瀬とも5年という時間を共にしてきた仲間。
友人であり、私が相良に恋心を抱いていることを唯一知っている人。
そのためか本来テーピングは浅野さんがするものなのに「日野の方がいい」と言って私がやらされる。
理由を聞くと浅野さんのよりも私の方が上手だからという単純明快な理由だった。

「体力的にはへとへとだけど、精神的にはもうバッチリ。片瀬はどう?」
テーピングを終えて、片瀬は足を確かめている。
「俺はいつでもバッチリなんです。あー、やっぱり絢子のが一番だよ。」
「そう言ってもらえると嬉しいな。」
これも5年の成果だと思うとまた嬉しくなる。すると横から鋭い視線を感じた。
ちらっと振り返るとそこには私を睨んでいる浅野さん。
うわ、すごく嫌な予感がする。

私の頭の中で急速に浅野さんの睨みの理由を解明する。
ある推測に辿り着き、私はさらに嫌な予感がした。
片瀬に視線を戻す。片瀬はいわゆるジャ●ーズ系の顔だ。つまりモテる。
部の中でも一番人気だと思うし、それに伴うようにバスケだってうまい。
もしかして、もしかする?

「ありがとな、絢子。」
くしゃくしゃと、片瀬が私の頭を撫でる。これは昔からの癖。
そして小声で相良に誉められてよかったなと言われた。奴の情報網は半端じゃない。
全く、と思いながらマネージャー専用に置いてあるベンチに戻った。

「絢子先輩って、片瀬先輩と仲がいいんですねー。」
どこか棘が含まれているような気がする・・・が、気のせいにしておく。
「そりゃあ、同級生だし。」
「先輩って170近くあって片瀬先輩ともお似合いですよね〜。」
あまりの刺々しさに泣きたくなってきたが、笑って返す。

私は170もあるいわゆる大きな女なのだ。
浅野さんや槇乃ちゃんみたいに160前後のかわいらしい容姿でもない。
そのため背の高いバスケの部員とも釣り合ってしまう。
昔はコンプレックスを持っていたが、もう今になっては気にもしていない。

刺々しく話し掛けてくる浅野さんに体力を奪われながらも、部活はなんとか終った。










ここ数日、頭痛が酷い。なんとなく熱っぽいが、無視に決め込んでいる。
浅野さんの攻撃は日に日に増していき、私が辛そうにドリンクやタオルを運んでいるのに、馬鹿にしたようにちろりと横目で見るだけだった。
相良が誉めてくれたことを気力の核として、私はとにかく頭痛と浅野さんに耐えていた。

深呼吸をして、気合いを入れて相良に声をかける。
「相良、ちょっと紅白戦の確認いい?」
いつも土曜の部活のときにやる紅白戦の確認。
ひとりひとりの力量を考えて、組み合わせにいつも試行錯誤している。
「あぁ。」
対戦表を見せると細かな指示が来たので、私はコピーしておいたもう一枚の紙に修正を書き入れていく。
途中くらっと立ち眩みのようなものがきたが、なんとか持ちこたえる。
せっかく誉められたのに、ここで体調が悪いなんて悔しい。

「これで、大丈夫ね。ありがと、すぐ修正してまた渡すね。」
私はすぐに原稿を書こうと思って相良に背を向けた。
「・・・・・絢子、」
「何?」
隙を見せないように笑顔で振り返る。じっと私を見る相良に少しドキッとしてしまう。
「・・・・相良、他にまだ用事あった?」
「・・・いや、なんでもない。」
誤魔化すように笑う相良はよくわからないけど、私は頭痛でそれどころではなかった。
「そう、じゃあまたね。」





「はぁ、」
熱い息が私から零れる。本格的に辛くなってきた。熱が出てきたかもしれない。
くらくら揺れる世界の中、槇乃ちゃんが個人のタイムを計っているのが見えた。
正直原稿書くどころじゃない体調だ。できれば浅野さんに手伝ってほしい。

ちらりと彼女を見るが、私が体調を悪い事をしって知らん顔しているらしかった。
頼ってはいけない。相良から言われた言葉を反芻する。がんばれ、私。
「マネージャー!ちょっとタオル1枚パスして!」
コートからそんな声が飛ぶ。浅野さんを見るが、足を組んで悠然としているということは、私にやれということ、か。
もう怒る気力も失って、精一杯の力で立ち上がってタオルを投げた。

・・・・つもりだったけど、私の体はぐらりと揺れて、体育館の床に吸い寄せられるように倒れた。
ひんやりとした床は気持ちよくて、私は自然と目を閉じた。
誰かが私を呼んでる。
そう思ったのに、私は急速に睡魔が襲いかかり、意識を手放した。










騒がしい体育館。笛の甲高い音。歓声。そして熱い彼ら。
私は友人の誘いでなんとなく男子バスケ部の招待試合を見ていた。
バスケにはなんの興味もなかったから、ただなんとなく試合を眺めていると、ある1人の男の子に目がいった。
幼さの残る顔だが、身長は高いし、真剣な顔はドキッとする。
プレーも目立ちはしないが、いいパスをしているんじゃないかと素人の私が思うくらいだった。

その男の子に注目し始めて、すぐ、彼は美しい弧を描いた3Pシュートをした。
あまりにも綺麗なシュートで、そして決めたとき一瞬見せる嬉しそうな顔に私は心を奪われた。
たぶん、あの時の興奮や感動は一生忘れないだろう。

私が相良に心を奪われた瞬間だった。


それからバスケの「バ」の字も知らなかった私は、本を読んで勉強してマネージャーになりたいと当時のバスケ部部長に頼んだ。
もともと雑用が好きだったから、とにかくバスケ部のために働こうと思った。
入ってすぐにバスケ部の人たちが大好きになっていた。

そしてあの男の子――――相良とも話が出来るようになった。
同じ学年ということもあったし、そのころの相良は今みたいに余裕がなくって、練習に一生懸命で、よく擦り傷をして私のところに来た。
努力家の彼に惚れ直しながらも、バスケばかりで私に目を向けてくれることはなかった。
他の女の子みたいに告白もせず、ただ相良の隣に立っていたかった。
だから告白なんてしなかった。振られてしまえばもう隣にいられないから。
彼の力になりたかったから、今日までマネージャーの仕事を一生懸命こなした。


もう4年も前のことだけど、あの見事なシュートは今でも目に焼きついている。

そして、相良への気持ちも変わりはしなかった。










懐かしい夢を見たなぁ・・・と思って目を開けようとする。
それで私は眠っていたことに気がついた。
ぱっと目を開くと、そこには仏頂面した相良がベットの傍の椅子に座っていた。
・・・・・ベット?

「・・・・・・。」
体が鉛のようで起き上がれないが、見える範囲だけでも見て見ると、どうやら保健室のようだった。
「・・・・もしかして私、あそこで倒れて相良に運ばれた?」
「・・・・・・そうだよ。」
いつもよりも低いトーンの声は相良が怒っていることを確認させる。

「・・・・・何か俺に言う事はないのか。」
まるで尋問されるかのような気持ちで、胃がキリキリしてきた。 「・・・え〜と・・・・」
私は目を泳がせながら、必死で言葉を探す。
「体調悪いこと隠していたことと・・・無理したことと・・・倒れた事、ごめんなさい。」
「体調がわかっているならなんで俺を頼らないんだ。」

「・・・・・え?」

意外な言葉に私はドキッとし、それから少し反省した。
「・・・・・・ごめん。」
なんとなく相良の気持ちがわかった。

きっと、責任感じているんだ。
私が体調悪いことを見抜けなかったこととか、倒れるまで無理させたこととか。
部長として、責任感じているに違いない。

「これからはこんなヘマしないから。」
「当たり前だ。」
すぐに返され私は返答に詰まる。私は視線を相良とは反対方向にした。

「・・・・絢子、」
「何?」
「俺ってそんな頼りないか?」
まるで1年のときに戻ったような、幼い自信のなさそうな声で相良は聞いてきたから心臓が高鳴った。

私は小さく笑った。
「とっても頼りになるから、その頑張り屋さんの力になりたくて、ちょっと意地張っちゃっただけ。だからあんまり責任感じないでよ?」
そう言って相良の方を向いたら、すぐそばに顔があって驚いた。

「え、と・・・さ、相良?どうかした?」
私の心臓がもたないんだけど。と付け加えたい気分だった。
「絢子、」
こっそりと、耳元で囁かれた言葉を聞いたとき、まだ夢の中にいるかと思った。



































□その後□



その後私は相良に強制的に部活を1週間休むように命じられ、久しぶりに部活に出ると驚いた。
ドリンクをもうつくって運んでいる浅野さんを見たからだ。

「おはようございます、先輩。」
礼儀正しく挨拶する浅野さん。私は頭が混乱してきた。
「・・・・あ、あぁ・・おはよう。えと、どうしたの?」
失礼だと思いながらも本音が漏れる。浅野さんはじろりと私をひと睨みしてから、薄く笑った。

「先輩みたいに、部員から愛されるマネージャーになりたいと思ったんですよ。今の私じゃ先輩には敵わないもの。」



「先輩!!もう体調は平気なんですか?!!」
槇乃ちゃんは涙目になりながら私を見る。
「もう大丈夫。むしろ1週間も部活休んだから体が鈍っちゃうよ。」
よかったーと槇乃ちゃんは安堵の息を吐く。

「先輩が倒れた時の部長と片瀬先輩とか先輩達、ものすごく怖かったんですよ?もうそれから私怖くなっちゃって・・・」



「お、絢子やっと復活か〜。」
「片瀬、私が倒れた時に何が起こったわけ?」
片瀬は思い出すようににやりと笑った。
「あぁ、あまりに絢子が馬鹿だから俺がプチンと来て、他の部員がマネージャー睨んで・・・」
笑顔でちょっと怖いことをいう片瀬に私は呆れた。
「それとレアな相良を見たよ〜。マジギレだったぜ、あれは。相良が絢子を保健室に運んでいった後、槇乃ちゃん泣いてたし。
他の部員も怯えてたしな。この蒸し暑い体育館が氷点下になった。」
槇乃ちゃんたちに何を言ったかまでは怖いから聞かないことにした。



「相良!」
「・・・・・淳平。」
「あ・・・だから、5年も相良なんだから慣れないって。」
「慣れろ。」
「・・・・・・・・・淳平、」
「何?」
「ありがとう。」
「?」




















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