どんどん自分が消されていくような気がする。

自分はどこにいる?












黒で塗りつぶす





彼女はいつも不定期にふらりと準備室に現れた。

第一印象は、真面目でごく普通の生徒。
容姿もそこそこ良いと思った。
まっすぐな黒髪が肩にかかり、ぱっちりとした瞳は小動物を連想させた。
男受けが良さそうだと頭の片隅で思っていたくらい。

それから準備室によく質問に来て、熱心な生徒だと思った。
他の生徒みたいに俺をねばっこく見るわけでもなく、興味がなさそうに、ただ質問の答えを求めていた。

数回してから彼女は質問の後気軽に喋るようになった。
外見とは違い、さばさばした性格で、ノリも良かった。
結構ノリが良くて、怒ったり、不満そうにするのに、はにかんだような笑顔が印象に残った。

いつしか俺はずいぶん昔に付き合った女を思い出した。
痛んだ茶髪、こげ茶の瞳、間延びした口調、全く似ていないのに、彼女と昔の女はどこか似ていた。

どこが似ているかがわかったのは彼女と親しくなって一ヶ月ほどしたときだった。
彼女は話の合間に少し寂しそうな顔を時折見せた。
それは一瞬で、気をつけていなければわからないほどだったが、昔の女もそういう顔を時折見せていた。

触ったら崩れてしまいそうな、繊細で、脆い表情。

彼女はそれからも時折その表情をしながら、綺麗に笑った。




『じゃあ、さよなら。』

二週間前、そう言って別れてから一度も会っていない。
授業ではいて、視界に入っているのに彼女は俺を視界に入れていない気がした。
彼女が来なければ俺と彼女は喋る機会は全くないことにも改めて気がついた。

でも、なんとなくわかっていた。
最後に喋ったとき、彼女はどこか沈んでいて、別れの挨拶のとき、あの表情をしていた。
もう来ないのかもしれないと変な確信を覚えたが、振り払っていつものように見送った。


今の状態は数ヶ月前に戻っただけだとわかっている。
けれど準備室はどこか薄暗く、寒く感じた。
胸に米粒くらいの穴が開いて、小さくて逆に気になるような、そんな変な感覚。

仕事が手につかないわけでもない。
体調も絶好調だ。
仕事は順調で、いつもとかわりないのに。

なのに、彼女がいないだけで俺はなんでそんなことを気にしているんだろうか。
あぁ、彼女と親しくなってから自分に誓ったのにな。

自分を少し叱咤してから、俺は準備室を出た。




「・・・・どうしたんですか?」

彼女はいつものように白のセーターを着て、鞄を持って準備室にいる。
いつもと違うのは、セーターの上にブレザーを着てマフラーまでしていること。
そして彼女からではなく、俺が彼女を連れてきたこと。

「・・・・ホント、どうしたんだろうな。」

一時の衝動というのは困るものだ。計画はまるでない。
はぁ、と溜め息をついて、もやもやする頭を振り払う。

「何の用もないのに呼び出すなんて先生らしくないね。」

彼女の口調は二週間前と違って明るかった。
なんとなく雰囲気が変わった気がする。
なんだか「俺の岩崎」じゃなくなっているのがとても気持ちを濁らせる。

「・・・・はぁ、馬鹿みてぇ。」
「・・・・・・・っ!?」

華奢な体を優しく、緩く抱きしめる。
頭を下げて彼女の肩に俺の顎を乗せる。
胸のもやもやがすっきりしてくるのがわかった。

「・・・・先生?どうしたの?」

いつもは聞かない動揺している声で彼女は言ってきた。

「・・・・・・・。」
「先生?」

自分に素直にしたらこんなにすっきりするような、はにかむような気持ちになるのが憎たらしい。
せっかく自制していたのになぁと呟いたら、彼女の頭が動いたのがわかった。

「・・・・・ねぇ、先生。」
「んー?」

至っていつもの会話、声音。ただ違うのは抱きしめあっていることくらい。

「この前、先生はおじさんで私はおんなのこって言ったでしょ?」
「・・・・あぁ。」
「でもさ、先生まだ二十六だし私、女じゃないかもしれないけど女の子でもないんだよ?
もう、十七だよ?たったの九つしか違わないじゃない。でも駄目なの?」

懇願するような言い方だった。
駄目じゃないことくらいわかっているけど、さ。

教師と生徒だから躊躇っていたわけじゃないんだ。
十近く年が離れているからってわけじゃないんだ。
ただ、
少し素直になることと俺なんかが彼女を好きになっていいかということが怖かっただけだ。

「・・・お前、そんなこと言うと俺はマジになるぞ。しらねーからな。止めるのは今だぞ。」
「先生こそ、覚悟してよ。」

彼女は俺から体を離して、挑発的な目で俺を見る。

「・・・・・じゃあ、」


「きみに言うよ」

































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