例えば部屋いっぱいにつまっている嵐の匂いとか。

例えば布団の微妙な固さとか。


すべてがすべて、私を安心させるのだ。








目を閉じてすぐに







「・・・・七度六分・・・。」
低く、そして少し怒気のこもった声で嵐はそう呟いた。
茶髪と金髪をまぜたような髪に、こげ茶の瞳。そして眉間には皺。
それを聞けば私はすぐ仁藤嵐を連想してしまう。
嵐はつい数ヶ月前から付き合っている。つまり、彼氏というやつだ。
そして私は今、そんな彼氏の部屋のベットで寝ているという情けない状況である。

「まだまだ駄目だなぁ・・・。」
「えぇ・・・七度に下がったじゃない・・・。」
嵐のお父さん、国義おじさんの言葉に私はがっくりする。
「七度もあれば立派な病人だ。」
本当はハンサムなおじさんに似てかっこいいのに、嵐はぎろりと不良も逃げ出すような怖さで私を睨みつける。

何故こんなに彼氏の家族と親しいかというと、家が隣同士の私と嵐は昔から仲がよかった。
嵐のお母さんはなくなっていて父子家庭、私の両親は今は海外。 ということで時々一緒に夕食を食べていたのだ。
恋人同士になってもそれは変わらなくて、私が昨日の晩熱を出したから看病してくれていたのだ。
驚くことに昨日は八度も熱があったのだ。今計ってみたがまだ熱は下がらないらしい。

「病院行くか?」
少し心配そうにおじさんは言う。
「・・・・えー、いいよぉ。お金と時間と体力を使うし・・・ここで寝てるほうがいい・・・。」
ごみごみした病院なんかより、嵐の部屋の方がずっと熱が下がりそうだ。
「そうだな。今粥作ってやるから。ちょっと食べて薬飲んでまた寝ろ。」
「うん。」
病気になると、なんとなく大人に頼りたくなったり甘えたくなったりするものだなぁと思った。
いつもは思わないのに、急にお母さんとお父さんに会いたくなってきた。

ぼんやりそんなことを考えていると、ベットの横に嵐が座っていることに気がついた。
「・・・・嵐、学校いきなよ。」
太陽の光の加減から見ても、七時は越していることがわかる。急がなければ遅刻になってしまう。
「別に学校なんてどうでもいいだろ。」
私は顔の半分を布団に埋めて、軽く嵐を睨みつける。

「・・・行ったほうがいいよ。」
嵐は顔を顰めて、頑としてベットの横から動こうとしない。
「私なら大丈夫よ。ほら、おじさんもいるし。夕方になって道場に行くころには嵐も入れ違いで帰って来るでしょ?」
おじさんは柔道の先生をしていて、夕方ごろからちびっ子の相手をしているのだ。
嵐はやっと腰を上げて、机にあったバックをつかんだ。

「じゃあ早く帰ってくる。」
私の頭を一撫でする。優しい感触がくすぐったくて気持ちいい。
「・・・・うん。」
嵐は私に背を向けて、ドアノブをつかむ。














「・・・・・凛花、」














「言動と行動を一致させろ。」









私の手は、いつの間にか嵐の制服の裾を掴んでいた。



言われたのにも関わらず、私は裾を掴む手を放せなかった。
嵐は学校へ行くべきだと思うけど、病気で寂しいから傍にいてほしいという気持ちもあった。
私の本心はどうやら後者らしい。

「・・・・・まったく、素直じゃない。」
呆れたようにわざとらしく溜め息を吐いて、再び嵐はベットの横に座った。
それに自然とほっとして、心が温まった気がした。
安心して裾から手を放すと、今度は私が捕まえられた。
嵐の少し冷たい左手と、私の熱で熱い右手が重なっている。

「ずっといてやるから安心しろ。」
「・・・・ふふ、もう安心した。」
私が熱のせいかしらないが締まりのない笑みを浮かべると、嵐も苦笑まじりで笑ってくれた。

重なった手が温かくて、私はゆっくり目を閉じた。






















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