「お前、最近部活中の顔色良くなったよな。」
「・・・そう見える?」
部長―――兄の一言に、私は苦笑した。



私は恋をしていた。そして、その恋は散った。
その欠片はまだ心の中に残っているけど、前に比べればささやかなものだ。
最近は穏やかな気持ちで二人を見れるようにもなってきた。
我が兄ながら、そういうところを見抜くのはすごいなぁと思う。



「確かに、もう平気だよ。」
ヒサは柔らかく笑い、私の頭を撫でた。
昔からやる癖の一つだ。
子ども扱いされている気がするが、今は悪い気分ではない。


夏が近づく日差しに、私は額の汗を拭った。
今日はマネージャーの子が風邪で休みだから私が一人でやらなくてはならない。
それを気遣ってか、ヒサは部活が始まる前にドリンク作りを手伝ってくれていた。

「部長〜。」
体育館から部員の一人が走ってくる。
「どうした?」
「顧問が来て・・・すぐ来いって。」
「ん、わかった。・・・持てるか?」
ヒサは私の手元に視線を落とした。

部員全員分のドリンクが入ったカゴは半端な重さではない。
「う〜ん、大丈夫。たぶん。」
正直辛いが、体育館から水飲み場までとても距離があるわけではない。気合いで行けそうだ。

「・・・・永瀬、ちょっと運ぶの手伝ってやってくれ。」
「え、」
「たまには甘えろ。」
頭を軽く叩かれ、抗議しようと思って顔を上げたらヒサはもう体育館へ走ってしまっていた。

「もう・・・」
「先輩、手伝いますよ。」
永瀬は微笑しながらカゴを軽々と持った。
「・・・ありがとう。」
好意に甘えることにして、明日は永瀬においしいドリンクを作ろうと心に決めた。


永瀬は入ったばかりの一年生で、なかなか良い。ヒサも期待しているようだった。
今度の新人戦でレギュラーに選ばれるだろうと私は予想している。
そして爽やかな笑顔は私の学年にも人気だ。
確かに謙虚な態度で敬語もバッチリだし、なによりかっこいい。



「・・・先輩って部長と仲良いですよね。」
永瀬は体育館を見ながらそう言った。
「・・・あぁ、兄弟だからね。」
よく言われる。気が合うし、なんだかんだ言ってヒサは私の理解者の一人だ。

「え?そうなんですか?」
「あんまり似てないからね。」
時々恋人同士だと誤解されることもあるので笑ってしまう。

永瀬はちょっと呆然とした顔をしていた。
「なに?もしかして変な誤解してたの?」
笑いながら言うと、永瀬はちょっと顔を赤くした。
・・・・図星、なのか・・・

溜め息をつくと、永瀬が慌てた。
「す、すいません!」
「いいよ、知らない人にはよくされるから。」
本当に、特別気にしているわけでもない。
苦笑していると、体育館の方から笛の音がした。部活が開始する合図だ。

「持ってくれてありがとう。行っていいよ。」
「でもまだ体育館・・」
「ちょっと距離だから平気。走って行かないと、部長怖いよ?」
冗談めかして言ってカゴを持つが、永瀬はカゴから手を放さない。

「本当に遅れるよ?」
不思議に思って永瀬の顔を見上げると、永瀬はじっと私を見ていた。
「永瀬?」
「先輩、」
永瀬の手が、私の手に重なった。心臓が飛び上がった。



「俺、ちょっと望みが見えたんで・・・頑張ります。」



永瀬の真っ直ぐとした真剣な顔に、私は心拍数が上がった。

「・・・う、うん。」
何を頑張るの?とは聞けず、どもりながらも返事をすると食えない笑顔が返ってきた。


触ったとか触らないとか





(君は私の心に触れた)
































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