マンネリ脱出
(少女の素朴な疑問とその結論)





なんていうか、トキメキがないな。

タマネギを炒めながら私はそんなことを思った。
時刻は七時。作っているのはハンバーグのためのタマネギ。
1LDKの部屋に高校三年の自分。
そして帰っているのは、半同棲中である社会人の彼氏。

が、今の自分はワクワクするわけでもなく淡々とタマネギを炒め、冷ましている。

・・・・何かおかしくないか?

そう疑問を感じながら、タマネギが冷めるのを待つ。


自分でも恥ずかしいが、私は恋愛を憧れていた。

恋に恋したことなど何回もあって、その度終わった後に自分に呆れた。
過去に彼氏なんてものも何人か作った。結構楽しかった。
けど今思えばキスしたって嬉しくも幸せにもならないし、ただ遊び相手をつくったみたい。
ドキドキしているのは幻想だったんじゃないかと考えるようにもなった。
その証拠に別れを切り出されても傷つきもしなかったし、悲しくもなかった。

だが、今回は違う。




「・・・ヒロさんてさ、やっぱり恋人といるとドキドキする?」
そう言ったらハンバーグを掴んだヒロさんの箸が止まった。
半開きにした口を閉じ、一口大にしたハンバーグをお皿に置いて私をじっと見た。
「・・・なんかあったの?」
深刻そうな声を出さないで欲しい。あと、眉間の皺も。ヒロさんには似合わない。

「いや、どうなんだろうって。」
純粋な疑問なの。と付け足すと、ヒロさんは困ったように笑った。
「それって遠まわしに俺といてドキドキしないって言ってる?」
否定したいところだが、実はそうなのだ。



ヒロさんといてもドキドキしない。
心臓はうるさくないし、顔が赤くなることもない。
どこかで思考が冷めていて、なんだか恋愛しているって感じではないのだ。

恋するってドキドキしたり、わくわくしたりするもんじゃないのだろうか?
それはただの私の固定観念であって、そうじゃないのもあったりするのか?

じゃあなんで私はヒロさんと付き合っているのか。
じゃあ私はヒロさんに恋してないのか。
と、言われると困る。答えなんて自分の中に見当たらないから。



私が何も答えないと、ヒロさんは水を飲んでから笑った。
「沈黙は肯定か?」
「・・・別にヒロさんのこと嫌いってことじゃないのよ?」
そうじゃなければなんで好きでもない男と半同棲をするんだ。

私の言葉にヒロさんは苦笑いだった。
あぁ、私馬鹿だって思ってすごく自己嫌悪をした。
「・・・・傷つくよね。ごめんなさい。そういうつもりじゃなくって・・・なんていうかう〜ん・・・」

上手く言葉では言えない。


なんていうかヒロさんは過去の彼氏たちとは違うのだ。
昔と違って幻想みたいな恋心を持っていない。
ということはこれが本当の恋なんだとすれば、実際冷めているものなのかなと考えてしまうのだ。


よくわからない言葉でなんとか説明すると、ヒロさんは穏やかに笑っていた。
優しい茶色の瞳が細まると、なんだか私の心はホッとする。
怒ってないし、不快だと思ってない証拠だから。

「なるほど。それで圭はそんな質問をしたわけか。」
「うん。やっぱり変?」
「・・・う〜ん。まぁ圭が冷めた性格をしてるんじゃないか?」
「でもね、ヒロさんのことは好きだよ?
私さー、恋愛ってもっとこう・・・トキメキが一杯っていうイメージがあるんだ。」

毎日がバラ色というには大げさかもしれないけど、そういった感じだ。
いつもドキドキして、顔を熱くなっちゃう・・・みたいな。

「理想が高いんじゃないか?」
笑いながらヒロさんはハンバーグを食べる。
「やっぱり?実際はこんなものなのかなぁ・・・。」
「おい、それはちょっと傷つくぞ。」
「・・・ごめんなさい。なんかヒロさんにはなんでも言えちゃうんだよね。」

ヒロさんは呆れながらも決して私を見捨てないとわかっている。
なんでも受け止めてくれるから、ヒロさんの前では嘘をつかない。
これは甘えているってことなんだろう。

「それは嬉しいな。もっと甘えなさい。」
そう言ってヒロさんは私の頭を撫で、食べ終わったので食器を流しまで運んでくれた。
ぼんやりとその様子を見ていたら、ある単語が頭に浮かんできた。


「・・・・熟年夫婦。」
「・・・え?」


考えてみれば熟年夫婦みたいだ、私達。
何も言わずにご飯をつくって、帰って来て一緒にご飯食べて。
適当に世間話をして、ソファでのんびりするだけ。
特に盛り上がることなく、でも分かり合っているなんてまるで老夫婦だ。

「・・・・・言われてみれば、そうだな。」
困ったように笑ったヒロさんは、キッチンでアイスココアを作ってくれている。
良い夫だ。なんてね。

「ヒロさんは私といてドキドキする?」
そう言ったら、ヒロさんは少し照れた顔をした。
「ドキドキっていうよりも、穏やかな気持ちになるね。安心するっていうんだろうね。」
「・・・あー、いわれてみれば私もそうかも。」
天井を見たら、変な染みを見つけた。なんだろう、アレ。

「はい。」
「ありがとう。」
ココアを渡されて、アイスコーヒーを飲んでいるヒロさんを見た。
ドキドキよりも、安心する気持ちの方が多い。
たぶんヒロさんと一緒にいれば天変地異が起ころうと、ゴキブリが出ようと大丈夫な気がする。
こういう恋の気持ちもあるのかな、と私は甘いココアの味を感じながら思った。

「トキメキがないなんて、俺たち付き合って半年にしてマンネリなのかな。」
「・・・最初からこんな感じじゃなかった?」
「う〜ん。」
苦笑するヒロさんに、私は笑った。

「・・・じゃあ、ドキッとするようなことやるか?」
隣に座って私を覗き込むヒロさんに、私はちょっとドキッとした。
「・・・・ヒロさん、変態っぽい。」
「わー、おじさんショック。」
「まだ25でしょ。」


「じゃあ、マンネリ脱出のためにキスでもしとくか?」
「・・・なんかムードないね。」

笑い合いながら、そっとキスをした。

たぶん私の頬はほんのりピンク色だと思う。











(穏やかに微笑む)





























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