どうせならギザギザに切り刻んでください。

そしたら私が夜空に投げるから、

そうしたら光って星になって、

いつか微笑んで見れるような綺麗な思い出になるから。












『ごめん』

そう言われてから一ヶ月と二十一日。数えている自分が恨めしい。

「・・・光ちゃん?」

トーンの高い可愛らしい声に私は我に返ると、
握っているタイムウォッチは概に笛を鳴らす時間を過ぎていた。
慌てて笛を吹くと、選手たちは止まって汗を拭っていた。
心の中でみんなに謝る。

「疲れてるの?交代しようか?」
「・・・あー、うん・・・ごめんね。」
心から心配そうに私を除く彼女に、目を伏せてタイムウォッチと笛を鳴らすことしかできなかった。
私ってばとことん駄目な奴。

「こんな暑いところで座ってるだけってのも疲れるよね。」
「だよね。まぁ・・・みんなの方が大変だろうけど、こっちにもこっちの大変さがあるよねー。」
「そうだよね!やっぱり光ちゃんはわかってくれるよね!この前脩くんなんてね―――」

気配り屋で、可愛くて、時々抜けているところがまた可愛い。
ぶりっこなんじゃない。天然というか生来の可愛さだ。
同性でも羨むような可愛い子。そんな子を憎いとさえ思えない。










「十分休憩!!ちゃんと水分とれよ!!」
『はい!』
部長の声に、選手がこちらへ来てドリンクのボトルを取りに来る。
彼女と私でみんなのドリンクボトルを二つに分けて、個々に渡していく。

ふと自分の手元を見て、彼のドリンクボトルがあることに気がついた。
急いで周りを見るけど、彼女との距離は少し遠い。
こんなところで呼びかけたらあからさまだ。

「あ、俺のじゃん。くれよ。」
傍から少し低い声がして、慌てて振り返った。
「・・・ごめん、ごめん。」
私は慌てて笑顔になって、手渡す。傍にいた部員にも渡す。

「今日もうまいな。さんきゅ。」
彼は笑ってそう言ってくれた。
その笑顔は少しぎこちなかった。

「・・・ありがとう。」
私の今の笑顔も、ぎこちないかもしれない。









最後に残ったボトルを抱え、一人ベンチに座ってファイルを見ている部長の傍に行った。
「ヒサ、」
私の声にヒサは顔を上げ、ボトルを受け取った。
一つ年上の私のお兄ちゃん。だけど一度もお兄ちゃんなんて呼んだことはない。
久志なんて呼ぶのもめんどくさいから「ヒサ」。

「座れば?」
ヒサは左手で自分の隣のスペースを軽く叩く。
「今までずっと座ってたからいいよ。」
笑うと、そうかと言ってボトルを私に手渡した。

「お前も飲んどけ。熱中症になるからな。」
「・・・うん。」
冷たいスポーツドリンクを喉に通しているとき、彼のあのぎこちない笑みを思い出した。
そういえば「友達でいよう」と私が言ったときも、私も彼もぎこちない笑みを浮かべていたかもしれない。



「・・・ヒカ、」
「んー?」
ボトルから口を外すと、怖いくらいに澄んだ瞳が私を見ていた。

「・・・そんな顔してでも部活出るくらいなら、辞めろ。」
「なっ」
何を言うんだ、と言おうと思ったが上手く話せない。

「馬鹿な奴らには気がつかないかもしれないが、俺が気付かないわけねぇだろ。」
時折後ろから聞こえてくる笑い声。
これで後ろを振り返れば、彼はあの子と笑い合っているだろうか。

「・・・俺、あの子のこともあいつのことも好きじゃない。」
「・・・・ヒサ?」
「あんまり無神経に笑うのも、あんなにぎこちなく笑うのも、好きじゃない。」
「・・・・・・。」
ヒサの口から、そんなことが言われるなんて思ってもいなかった。
私はそのことについて一言も言ってないのに。



「おら、タオル。」
ヒサは首からかけていたタオルを私の顔にぶつけた。
顔を埋めたら、汗臭くって鼻がつんとした。

「・・・汗臭い。」
「俺の美しい汗だから問題ない。」
「・・・・・ばっかじゃないの。」
喉が鳴るように、乾いた笑いをした。

「・・・・・この臭いタオル、休憩時間終わるまでに返すから・・・」
「あぁ、一分百円な。」
「高いよ、馬鹿。」
喉から出てくる声は震えるばっかりで、上手く喋れない。






純粋な優しさも、半端な笑顔も、私の心を切っていくだけ。

そして、こいつの優しさと私の強がりは零れる

カットハートの涙







(零れた涙は星になった)
































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