携帯握り締めて30分 寒空の中「ごめん」とメールが来た。





本当なら殴りかかりたいところだけど、私は人ごみの中30分もただ立っていることに疲れてしまって溜め息しかでなかった。
休日なのに朝早く起きて、髪に少しウエーブをつけたり、新しいブーツの足音に機嫌を良くなっていたのが悪かった。


あんまり期待したら、裏切られたときものすごくがっかりするだけなのに。
待ち合わせの時間の後に急な断りのメールが来るのは毎回のことだったのに。
何ヶ月ぶりかのあっちから誘ってきたから浮かれていたのかもしれない。



もう一度、大きく溜め息をついた。

絶え間なく人が行き交うこの通りでは、私の溜め息など誰も気に留めてくれないだろう。 そう思うと少し寂しくなった。



「坂井?」
人ごみの中から温かな声がした。
辺りを見回すと、愛嬌のある笑顔を見つけた。


「・・・佐伯。」
色素の抜けきった明るい茶色の髪と、180ほどの身長と愛嬌のある笑顔。
佐伯は去年同じクラスになって、席も近かったことから仲よくなった。



「私服だったから一瞬わかんなかったぜ。」
「私も。新鮮だね。」
私服同士で会うのは初めてかもしれない。
学ランが似合う佐伯が、タートルネックを着ているとなんだか大人っぽく見えた。


「こんなところで何してんだよ?・・・あ、もしかしてデートとかか?」

からかうように言われたが、今は冗談に付き合っている気持ちの余裕がなかった。

「・・・そうだよ。」

「・・・マジで?あ、悪い。じゃあ俺行くわ。」

佐伯の顔が一瞬強張ったが、すぐに立ち去ろうとした。相変わらず良い奴だ。

「でもドタキャンされた。」

私の視線は自分のブーツで、佐伯がどんな顔をしているかわからない。







「・・・だから、俺にしとけばよかったのによぉ。」

溜め息と共に出された言葉はあまりに佐伯らしくて、私は小さく笑った。



「・・・・・うん、そうだね。私もそう思う。」

まだ佐伯の顔が見れなかった。 コンクリートの地面もなんだか寒そうだった。


すると急に手を握られた。


驚いて顔を上げると、少し硬い顔の佐伯がいた。


「そういうこと言うお前はずるい。」
「・・・・ごめん。」
「・・・謝るなよ。」
「・・・・・うん。」



佐伯はどこまでも優しい。こんな私にも優しい。そう思うと少し寂しい。











(私の手は冷たく 貴方の手は温かい)





























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