風はいつも私の髪を優しく撫でる。

まるで俊彰のようだと私は思う。

いつも傍にいて、私のことを見守ってくれている。













































今日はなんだか気分がぼんやりする。
何故だろう?
頭がぼーとして頭がよく回らない。
体が熱いかと思えば急に全身が寒くなる。
視界もぐらぐらする。

それなのに雲は真っ白で空は清々しいほど青い。
風は生温くて気持ち悪い。
そして、容赦なく照りつける太陽が体をもっと暑くさせる。


教室に入って、ふらつく体をなんとかコントロールしていつも通り振舞う。
冷房の効いた教室は寒すぎるくらいで、窓から見える太陽とは別世界のような気がした。
「浅田さん、おはよう。」
前の席の森川さんが私の机に肘をつきながら爽やかに挨拶する。私もおはようと返す。
いつも一緒に行動したり、特別仲が良いというわけではないがちょっとだけ世間話をするクラスメイトの森川麗華は今日もメイクばっちりで可愛らしく微笑んでいた。

「暑いねー。まぁあと少しで夏休みだし、期末も終わったからほとんど遊びだよねー。」
森川さんの声がどこか遠くで聞こえているような感覚になる。
頭がガンガンしてきて冷房が私の体温を吸い取っていき寒気がする。
「そうだね。今日も文化祭の決め事だし・・・午前で終わるしね。」
できるだけ、いつも通り。大丈夫、現に彼女は気がついていない。
午前で終わるんだし、文化祭の決め事なんて椅子に座っていればいいんだ。
横になりたいという激しい欲求を無視して森川さんを見る。

「だねー。あ・・・・」
森川さんの笑顔が固まった。森川さんの視線は私の頭の上を通り越していた。
なんだろうと思ってだるい体を動かすと教室に俊彰が入ってきていた。
「ねぇねぇ、そういえばさー浅田さんて香原君と仲良いんでしょ?」
森川さんは声を潜めて言う。
「・・・・別に、そんなことないけど。」
「うそだぁー、だって浅田さんの言葉にはちゃんと答えるじゃない。」
「たまたまだよ。それにあんまり喋らないし。」
半分嘘で半分本当のことを言った。
私の言葉にちゃんと答えるのは幼馴染で俊彰との交流があるし、相手も私を悪く思っていないからだ。
そして本当にあんまり喋らない。私も口数が多いわけじゃないし、教室で喋ることも少ない。

「あのさ、私香原君ちょっと狙ってるんだよねー。」
「・・・・・・・そうなんだ。」
一瞬体のだるさも頭が割れるほど痛いこともすべて忘れた。
俊彰が席に座ったのが視界の端に見えた。
「だってさ、無口でクールだし、かっこいいじゃん。
ほら、前だって土井倒しちゃって喧嘩も強いし頼りになりそうだしー。」
「そう・・・だね。」
頭がガンガンする。しまいには耳鳴りもしてきた。最悪だ。
それよりも、胸の奥がもやもやほうが苦しいのは異常だ。

点が合わないなと思いながらぼんやりと森川さんの話を聞いていると横から声がした。
「おい。」
「あ、香原君おはよーv」
思いっきり媚を売った顔と猫撫で声で森川さんは俊彰に笑顔を見せる。
が、俊彰は横目で森川さんをみるとすぐに私の瞳を見た。
「おい。」
「私の名前はおいではないわ。」
なにくだらない小学生みたいなこと言ってるんだ私は。
あぁ、頭がごちゃごちゃする。ガンガンする。ぐらぐらする。
体が苦しすぎて涙が出そうだった。

「美和子。保健室に行け。」
森川さんが驚いた顔をして私になにか言っているけど無視する。
クラスにいる人全員が私を見ているけどそれもやっぱり無視。
「なに言ってるの?」
私は力なく笑った。
誰も私の調子が悪いと気がつかなかったのに俊彰だけが気づいたことが悔しくもあり嬉しくもあった。
「行け。」
顔を顰め、私の手首を引っ張る。私はよろけながら椅子から立ち上がってしまった。
いつもならこんな無理にやらせないようとしないくせに。

「別に大丈夫よ。それよりこの森川さんはあんたのこと気に入ってるみたいよ。お話でもしたら?」
俊彰をあんたなんて言ったのは記憶の中では初めてだ。
森川さんはびっくりしていながらも俊彰に笑顔を見せていた。
俊彰の目が怖くなる。いつも無表情の顔には怒りがひしひしと伝わった。
こんなに怒る俊彰を見るのは初めてだ。
俊彰を怒らせることができるのは私だけだという変な優越感が私の体を駆け巡る。
どうやらホントに体と脳が煮上がっているらしい。

「ふざけるな。これ以上言ったら本気で怒るぞ。」
冷たい声だった。こんな声を浴びせられたのも初めてかもしれない。
俊彰に握られる手首が痛かった。
「放して。」
私も俊彰を睨みつけ、精一杯の冷たい声で言う。
けれど体に力が入らず、きっと弱々しいものなんだろう。
力を振り絞って俊彰の手をから逃れる。
この教室の嫌な空気が不快感を増えさせるので教室を出ようと俊彰から背を向けて歩き出すつもりだった。

けど、そんなことできなかった。
一歩踏み出した瞬間体に火がついたように全身が熱くなり、激しい頭痛や耳鳴りや立ちくらみが一気に押し寄せてなにがなんだかわからなくなる。
膝ががくっと折れたとき、私は全身から力が抜け崩れ落ち、小汚い床が近づいてきた。
まるでスローモーションだと思いながら俊彰の「美和子!!」という切羽詰った声が聞こえた。
こんな必死で焦った声は何年ぶりに聞いただろうかと思いながら私はブラックアウトした。


















「39度の熱でよく座ってられたわね・・・呆れた。」
誰かが喋っている。まだ目を開ける力がない。
「親御さんに連絡したほうがいいかしら?今いるのかなー。」
この声聞いたことがある・・・・・あ、そう・・・保健室の先生だ。
「美和子に親はいない。俺が一緒に帰る。」
俊彰・・・・?私保健室にいるのかな。
「あらそう。じゃあそうしてもらうか。」
ゆっくりと瞳を開けると白い天井が見えた。

シャッとカーテンの開く音がして茶色のパーマをかけた女性がこちらを見ている。
「・・・・先生?」
「あ、目が覚めたか?気持ち悪くない?」
「はい・・・でも頭が痛いし体がだるい。」
「あなたねぇ、39度も熱あったのよ?
それなのにこんな暑い中学校へ来て急にめちゃくちゃ冷えた教室行ってクーラーの風当たってれば倒れるわよ!
全く、もう少し自分の体を大事にしなさい。」
先生は私の額に指を当てる。

「・・・・すみませんでした。」
「香原君に感謝しないよ?お姫様抱っこで貴方を運んできてくれたんだから。」
先生は楽しそうににやにやと笑う。
「そうですか。」
「あら、照れもしないの。つまんない。」
お姫様抱っこやおんぶされたことは何回もあるのでもう今更だ。
つまらなそうにしてから満面の笑みに戻ってちゃんと家に帰って休むのよ?と言った。

「そういえば私これから職員会議なの。香原君にちゃんと送ってもらいなさいよ?じゃあお大事にね。」
「はい。ありがとうございました。」
先生と入れ違いに俊彰が入ってくる。
いつもの無表情に戻っていた。なんとなくほっとする。
しばらく沈黙が続いた。

「・・・・・俊彰、」
俊彰の視線が私にくる。
「ごめんね。なんかあんまり覚えてないけど酷いこと言っちゃって俊彰が怒ったことは覚えてる。
ごめん、ホントに。これからあんなこと言わない。」
はぁ・・・と俊彰の深い溜め息が聞こえた。
「当たり前だ。二度とあんなこと言うな。腹が煮えくり返る。
それに二度とあんな無理をするなと昔に言った気がするが?」
「う・・・・すみません。努力します。」
「・・・・とにかく早く帰って寝ろ。起き上がれるか?」
「うん、大丈夫。あ、バック・・・」
「・・・・・・持ってくるから寝て待ってろ。」
そう言って保健室から出て行ってしまった。

珍しく俊彰はよく喋ったし、とても優しくて胸が熱くなる。
すると保健室のドアが開く音がした。俊彰にしては早すぎる・・・けが人とか?
「あ、いたいた。大丈夫?」
カーテンから生首のようにひょっこりと森川さんが顔を出した。
「森川さん・・・うん。だいぶ楽。」
「調子悪いなんて気がつかなくてごめんね。あとさ、香原君と浅田さんてやっぱり付き合ってるでしょ?」
「・・・・・なんで。」
否定もしないが肯定もできない。
付き合おうとかそういうことを言ったこともないが恋人に近いといえば近い。

「ホント今日は良いもの見れちゃったよ。」
それを思い出したようで森川さんは満足そうに微笑んだ。
「いいもの?」
「そ。香原君の焦った顔や心配そうな顔。香原君が動揺したところなんて初めて見たし絶対貴重だよね。」
確かにそうだ。私も片手で数えるほどしか見たことがない。

「たぶん、香原君を動揺させたりできるのは浅田さんだけなんだって思った。
だって香原君、浅田さん以外眼中にないもん。他の女が適うはずないよ。」
「・・・・ごめん・・・・」
そういう気持ちもあるがその反面人からそう見られて嬉しくもあった。
「なんで謝るのよ。別にまだ好きになってもいなかったし。」
森川さんは明るく笑う。
「早く風邪治して浅田さんと香原君の歴史を聞かせてね♪
個人的にめちゃくちゃ興味あるからvそれじゃお大事にね。」
「うん。ありがとう。」




森川さんが出て行ってから少し経って俊彰がバックを持って、帰ってきた。
「・・・・なにかあったのか?」
俊彰は私のことならなんでもわかるのか・・・・?
「んー、ちょっと良いこと?・・・・帰ろうか。」
私は重い体を起き上がり、俊彰に笑顔を見せた。























「風」ってタイトルが「風邪」とかけてることに書き終わってから気がついた(笑


















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