ふと思ったのだが、利麻が動揺する時とはあるのだろうか。













恋人達のバランス
〜または陸の二人の考察〜












「どう思うぅ〜?りっちゃーん?」
私の呂律は思うように回らなくなってきた。目の前にいるりっちゃんは顔を顰めていた。
「衣里、もうやめろよ。相当酔ってるぞ。」
「ちょっとぉー、りっちゃん!!質問に答えなさいー。」
なんだか急に泣きたくなってきて涙目でりっちゃんを睨むとわかったよと呆れた顔で承諾した。

今は何時だかわからないがたぶん十時か十一時。
東京からちょっと離れたところに住むりっちゃんが出張かなんかで東京に来たので久しぶりに会おうと居酒屋で九時から飲み始めたのだ。
りっちゃんは本名松本陸。うちの母親の兄の息子。つまり従兄弟。
今は確か私より三つ上だから二十四歳で結構良いところに勤めてる社会人。
昔から正月とか夏休みとかお盆とか休みごとに会っていて、私もりっちゃんも一人っ子だったからお兄ちゃんみたいな存在。
ホント人良さそうな好青年みたいな容姿してる。あんまり外見は大人っぽくないけど優しくて、やっぱり私より大人のお兄ちゃんみたいだ。

「じゃあ衣里、話を整理すると衣里には四歳年下の彼氏がいると。」
「そぉー。」
私はまたビールを飲む。りっちゃんは慌てて私のジョッキを取り上げて話を続けた。
「その彼氏は高二とは思えないほど頭の回転が良くていつも口では負けてしまう。」
「・・・・そうよぉ。」
悔しくて、涙がにじんできた。
「それでその彼氏の動揺した姿も見たことないし、困った様子も悩みの相談さえしてこない、と。」
「そうなのよ!!」
私は思いっきり机を拳で叩く。ドン!という音の他の客もこちらを見る。

「もうずいぶん前になるけどさ!高校受験のときもさらっと決めちゃってなんにも言ってくれなかったのよ?!
私の方が年上なのに口悪くっていっつも負けちゃうし、というかあっちのほうがしっかりしてるくらいでさ・・・もう年上の女形無し・・・・」
普段泣くことなんてないのに、ぼろぼろと涙が流れてきた。
りっちゃんは慌てて向かいの席から隣の席に移り私の頭を撫でてくれた。
「あぁ!ほら泣かない。衣里は女だろ。」
「うわーん。」
私はりっちゃんの高そうな背広の端で涙を拭いた。
「あ・・・まぁ、いいか。」
鼻水まで出てきてみすぼらしい・・・・もう、とことん泣きたくなってきた・・・。

「ほら、ティッシュ。」
「ありがと。」
ティッシュをかみながら、いろいろ考える。
もう私は大学三年になってしまった。再来年くらい上手くいけば社会人だ。
それなのに彼氏はまだ高一。ホント、犯罪ではないかと時々心配になる。
大体私の方が早く老けていくなんて最悪だ。なんでかっこいい年上の男を恋人にしなかったんだろう。
あっちは青春まっさかりなのに私は今年で二十一。もう涙で前が見えないわよ。

「・・・・つまりさ、衣里はその彼氏に甘えて欲しいんでしょ?」
「そうよぉ・・・・って!ち、違う!!」
さっきの涙で酔い冷めてきた。ついぽろっと本音が出てしまったが即座に否定。
私は恥ずかしさのあまり残ったビールを一気飲みした。
「あー・・・・もう・・・・」
りっちゃんが困ったなぁという顔が最後の記憶だった。




















久しぶりに従兄弟で妹みたいに可愛い衣里と飲んだ。
もうお互い飲める年になったなんて驚くのは年寄りっぽいかなと苦笑した。
最初はお互いの生活やおばさんは元気とかそういう話だったが衣里は酔ってから彼氏の話ばかりで、俺はその聞き役となってしまった。

どうやら衣里には四歳年下の彼氏がいるらしい。つまり今高二。
衣里が高二のことから付き合い始めたというのだからもう四年。結構長いので驚いた。
衣里は最初は愚痴ばかり零していたが自分よりも冷静な彼氏に頼りにされたいらしい。
なんだが衣里らしくて笑ってしまうが、甘えたり相談したりしてほしいらしい。
本人はそう言ってないが本音ではそう言っているのだ。

けれどなんだかんだ言って続いて四年。
それも話によればとてもかっこいいらしく(口は悪いと言っていたが)聞いてはいないがきっと女子生徒に人気なんだと妬いていた。
こんな衣里を見るのは初めてなので新鮮味があるし、なにより面白い。
とても、衣里の彼氏に興味がある。

ピロロロロ ピロロロロ♪
こんなシンプルな電子音は俺の携帯ではないのでたぶん衣里だろう。
当の衣里は泣きつかれたのか寝てしまった。どうしようかと迷いながら俺は酔い醒ましウーロン茶を飲んでいた。
衣里のバックから淡いピンクの二つ折りの携帯を取り出す。
着信音の長さから電話だろう。
画面を見てみると・・・・

『利麻』

・・・・・なんて読むんだ?
りお?・・・・・もしかして噂の彼氏だろうか。
俺は好奇心に負けて緑の電話のマークを押した。
『衣里さん?』
そこまで低くない、まだちょっと幼い声。ビンゴだったらしい。
俺の頬の筋肉が勝手に緩む。
『もしもし?』
一向に返事が来ないので不審に思ったのか怪訝そうな声をする。
なんというべきか迷いながら、俺は口を開いた。
「こんばんは。」
我ながら、マヌケな挨拶だ。今は十一時で夜中に近い。

『あんた誰?』
警戒心の強い声になった。トーンも下がっている。
からかうと衣里に被害を及びそうなので、できるだけ優しい声で話す。
「君・・・利麻くんだっけ?衣里の彼氏の。」
『・・・・・そうですけどなんですか。』
相手が年上だとわかったのか敬語になったが刺々しい言い方だった。
衣里がこんな彼氏持つなんてなんか意外・・・・いや、でもこういうのにひっかかって抜けられないのか?

「よかった。やっぱりそうか。衣里の家、どこかわかる?というか今から出れる?」
『なんですかいきなり。』
「俺衣里の家がどこだかなんとなくしかわかんないんだ。
今衣里酔って寝ちゃってるから聞き出せなくて困っていてね・・・」
送り届けようにもどこのマンションだかわからない。
確か都心よりちょっと離れたところだと言っていたが・・・・。
『わかりますけど・・・・』
「じゃあ渋谷まで出てきてくれないか?井の頭線の改札で待ってるから。
あ、目印・・・あ、そうか衣里がいるから大丈夫か。じゃあよろしくね。」
『ちょ、ちょっと待ってください!』
俺がもう通話を切ろうとしたら呼び止められた。
「なに?」
『・・・・あんた、声の感じからしてたぶん衣里さんになんにもしてないと思うけど・・・誰ですか?』
戸惑った声だった。なんだかまだ高二なんだなぁと自分が高二のころを思い出す。
「声の感じで判断なんて・・・優しいヤクザだっているかもよ?とにかく早く来てくれると俺も嬉しいんだけど。まぁ話はそれからね。」
俺はそう言って通話を切った。




夢と現を彷徨っている衣里をなんとか立たせて渋谷の改札まで行った。
衣里が不安定に立ちながら俺によっかかってまた寝始めた頃、彼は来た。
「やぁ、利麻くん。」
俺は柔らかく笑いながらも内心少し驚いた。
なるほど。確かにかっこいい。衣里が女子生徒がどうのと妬くのも無理ないかもしれない。
「・・・・どうも・・・。」
利麻くんはぶすっとした表情で俺と衣里を見ていた。恋人同士に見えるかもしれないからだろう。

「俺の名前は松本陸。衣里の従兄弟でまぁお兄ちゃんみたいな感じかな。
今日はたまたま俺がこっちに来たから飲んでたんだ。」
利麻くんは少しほっとした顔をしたので俺はつい笑ってしまった。
「・・・・なんですか。」
また、ぶすっとした表情に戻ってしまった。
「いや・・・・俺の口から言わないほうがいいかもしれないけど、衣里が君のことを愚痴ってたから。
全然動揺しないし甘えてこないってね。ちょっと興味持ってて電話に出たんだ。衣里をどうしようか困ってたしね。」
にっこり笑うと利麻くんは少し困った顔をしていた。

どうやら利麻くんは衣里の前ではかっこよくいたいらしく、衣里は衣里で彼氏の前ではかっこいい年上の女でいたいというわけか。
なんだか不器用な二人だなぁと微笑ましく思うし、そういうのが二人のバランスなのかもしれない。

「衣里、衣里。起きろー、」
俺はぐらぐらと衣里を揺らすと薄っすら目が開いた。
「・・・・んー・・・・・・」
「お迎えが来たぞ。ほらちゃんと立て。今度またメールでもするから。」
「・・・・・おむ・・・・かえ・・・?」
衣里はふらつきながらも自力で立ったので利麻くんに目でよろしくねと言ってあとは任せることにした。
「じゃあおやすみ。」
「・・・・おやすみなさい。」
利麻くんは衣里を支えながら会釈した。

とても面白い二人だなーと思いながら俺は衣里を応援してやることに決めた。
























なんだかこの作品は真剣に書いてても勝手にギャグっぽくなっている気が・・・。
りっちゃんは爽やかな顔した腹黒さんです(衣里さんは気づかない)(笑)





















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送