ぼんやりと見上げた空は忌々しいくらいに青く、穏やかだった。ゆったりと雲は風に乗って動いていた。
雲がゆっくりと動いているのを見ると、時もゆっくりと流れているのを実感するのは私だけだろうか。
・・・・まぁ、そんなくだらないことを今考えているのは私だけな気がするけど。


「・・・・うっわ、浅田さんよくこんな状況で呑気に空なんて見れるのよ?!」
「相変わらず変な子・・・・・。」




















「しねえぇぇぇぇ!!!」
教室に響き渡る耳が痛くなるほどの大声。よくそんな大きな声が出せるなと感心する。行動はこれっぽっちも感心できないが。

女の子の甲高い悲鳴がした。
それを合図にするようにいろんな音の交じり合った大きな音が聞こえる。
同時に私の机の前に黒い物体が転がり込んで来た。私の前の机と椅子は派手に倒れる。
私の座っている椅子そして私の机以外はほとんど倒されている。否、倒れてしまっている。

「な、なにをしているんだ君達!!」
驚きを隠しきれていない中年の男の声が教室の出入り口の方から聞こえてきた。見なくても声で誰だかわかる。
私のクラスの担任、緒形だ。
薄くなる髪を必死に長く伸ばしている細身でいかにも頼りなさそうな外見。事実、なんの頼りにもならない。
一同緒形の問いを完全無視している。皆も緒形に状況を説明してもなにもならないことを知っているからだろう。

私の前の席の場所に倒れていた少年が起き上がった。
窓を背にして廊下側を血走った目で睨んでいる。あまり綺麗ではない顔の口元は血が出ていて赤くなっていた。学ランは汚れてしわしわになっている。痛みきった茶髪は乱れている。

なんとなくその視線の先を追うと一人の少年に行き着いた。
マネキンのようにすとーんとそこに立っている。身長は180近くあり、足が長い。
身長のわりには筋肉がなく、細身に見える。色白で、二枚目半くらいの顔。黒と茶色の間くらいの髪は最近切っていないのか学ランの鍔にかかってしまっている。

彼は何を考えているのか読み取ることのできない表情をしていた。私はこの人を初めて見た時、無表情という表情を理解できた気がした。
ただ、傍観しているだけにしか見えず、何も感じていないような表情。くだらないとか呆れとかつまらないとかそんなことさえもわからない。
たぶん私も同じような表情をしているんだろうが。

視線を正面の少年に戻すと目が合ってしまった。
すると目をかっと開き、私を凝視した。その目は少し泳いでいた。
数秒私を見ると急によくわからない言葉で叫びだし、私の首に工作用のカッターを突きつけた。
「あ、あはははははぁぁあ!!おいっ!!香原ぁぁ!!てめぇの女を殺されたくなかったら土下座であやまれぇぇ!!」
唾を飛ばしながら無表情の少年―――――香原俊彰に言う。
私は唾が飛んできて髪にかかり、顔をしかめた。今日は念入りに髪を洗わなくてはならない。

このカッターで私を人質にして香原を脅し、逝ってしまっている目をした少年の名は土井雅人。
我が校の不良で、香原に喧嘩を売ったところ見事に返り討ちにされて親に煙草を吸っていたことなどその他の悪事がばれてしまい勘当されかけたらしい。そして一ヶ月間反省させるため部屋に閉じ込められたそうだ。
息子を優等生と信じ込んでいた両親はいっそ哀れだと思ってしまうが土井ほどで今まで隠し通せていたので親子そろって頭は良くないらしい。
まぁ土井にとっては運のなかった出来事だ。

なにんせよ、つまらない逆恨みで一ヶ月ぶりに三時間目の自習の時間に登校した土井はカッターを持って香原に飛び掛ってきた。そして今に至る。

「つ、土井!!やめなさい!落ち着いて!」
緒形の情けない声が静かな教室に響く。その声を聞くとまず貴方が落ち着いたほうがいいと思ってしまう。
横目で緒形を見ると思った通りへっぴり腰で青い顔をしている。同じクラスの生徒たちも血の気の引いた顔をしていて呆然と立っていた。廊下はざわついている。

「おら、おらぁ!!早くしろぉ!!!」
土井がさも自分が勝ったように気味悪い笑みを浮かべて香原に向かって叫ぶ。
カッターを持つ手は震えていてあと数ミリで私の肌につきそうだった。
私は危機的状況だとわかっているものの冷静に状況を判断している自分に驚いた。こういう状況になったら私でも叫んだりしてしまうかなと思っていたからだ。
だが危険すぎて逆に冷静になってしまっているのかもしれない。
そして土井を下等評価し、あまりにも馬鹿らしいので呆れている自分もいる。

それに、不思議と奴がいると安心感があるのだ。私は無傷でいられることを確信している。

なんだか自分がおかしくなり口の端を少し上げる。
それを土井はたまたま見えたらしく、顔を真っ赤にする。
「なにがおかしんだぁぁあ?!!!」
だから唾を飛ばさないで欲しい。お前のすべてがおかしいとでも言ってやろうかと思った。
「あんたのすべてだよ。」
「あぁ?!!」
もうどうせならいっぱい言ってやろうと思って私は空気を吸い、一気に言った。

「大体自分が悪いことをしたくせに香原に怒るなんて幼稚すぎるのよ。全く自分の行いを反省してないところからして小学生からやり直したほうがいいんじゃないの?それにたいして喧嘩も強くないのに調子に乗ってやるからこんなことになるんだよ。そういうことを考えることさえできないのにこんな馬鹿げたことやるな。あんたみたいなクズが私と同じ空間にいるだけで吐き気がするの。早く帰ってママに抱っこしてもらって慰めてもらえば?」
土井の顔がもっと赤くなり、なにか言いたいらしいが言葉が出ず、口をぱくぱくして金魚の真似事をしているようだった。

「そういう汚い顔私に二度と見せないで。早くこの場から消えて。どうせあんたの勝ち目なんて最初から米粒一つもないんだから。」
「う、うるせぇぇぇ!!!」
土井はカッターを持つ手を振り上げ、私に向かって刺そうとする。

すると、
「下がれ。」
透明で綺麗な低い声が聞こえ、私は反射的に机を蹴って椅子に座りながら後ろに跳び下がった。

その直後、ガラスの割れる音と金属の音と鈍い音が同時に聞こえて目の前にいた土井はいなくなっていた。
私の左にある窓のひとつ手前の窓ガラスは粉々に割れていて私の机には小さな破片が落ちていた。割れた窓には土井の片足が外側から出ていた。
土井のいた場所はカッターと割れたガラスとそれをかぶった椅子があった。

つまり土井は飛んできた椅子が上半身に当たり、その衝撃で窓ガラスを割ってベランダに突っ込んだのだ。

ピクリと微小に土井の片足が動いた。生きていた。生命力が強い奴だ。
まぁ重傷だが死んでいなくてよかったと言うべきだろう。
「先生、救急車を呼ぶべきだと思いますけど。」
静まり返った教室に私の声は妙に大きく響いて聞こえた。
「あ・・・・・・あぁ!そうだな!!おい、誰か職員室に行って先生を呼んできてくれ!」
呆然としていた先生と生徒たちは急に動き出し、教室が一瞬にしてうるさくなる。

これじゃあどうせ午後まで授業なんてないだろうから私は立ち上がり、教室を出た。

彼もいつの間にかいなくなっていた。












わけわかんなくてすいません。。。
なんだか突発的に書きたくなった・・・。
浅田と香原の関係を微甘と言っている私は変ですか??
てか二人みたいな関係が好きだったり。(つまり微甘大好き)
気が向けば続編も。
















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