the first week



意識の中にピアノの音が入ってくる。
真っ暗な視界の中に鮮やかな色が入ってきたようだった。
聞いたこともない曲なのに、私の心を揺るがせた。
こんな気持ち初めてだ。
揺るがされる旋律を聴きながら、私は不思議な気持ちになった。




聞き入っていたら、急に演奏が曲の途中でぷっつり切れた。
そこで私は我に返って、閉じていた目を開き起き上がった。


夏休みの怠惰な朝。
時計を見ればまだ七時半だった。
まぁ健全な生活をしている人や仕事をしている人なら起きていて当たり前なのかもしれないが、
あいにく私は部活に入っていない暇な高校一年生だ。
こんな時間に目が覚めるのは奇跡に等しい。


考えてみればどこからピアノの音なんて聞こえてきたんだろう。
私はこの家に十年住んでいるが、一度も家でピアノの音なんて聞いたことなかった。
音の方向からして裏の家だが、そこは老夫婦が住んでいる家だがピアノなんて弾いているとは思えない。
というかピアノなんてあの家にあるんだろうか。


キャミソールに短パンという格好で私はカーテンを少しだけ開いて裏の家を見た。
見慣れたベランダが見える。その窓は開いていた。レースのカーテンが風に揺られている。
カーテンが揺れる度、少しだけ部屋の様子が見える。
真っ黒なものの一部分が見える。


・・・ピアノ?やっぱりここからだったの?!


十年目にして初めて気がついたという自分のマヌケさと、発見した驚きを感じる。
謎がひとつ解決したところで、今度は演奏者のことが気になり始めた。


クラシックなんかを全く知らない私でも、あの音はなにもかも忘れてしまうくらいだった。
何か語りかけてくるような、弾いている人の気持ちが伝わってくるくらい感情的で、私の心を揺るがした。
音楽なんて偉く語れない素人だが、私は感じていた。

あの人はきっと――――


「あ」
人が見えたため、思わず声を上げてしまった。
窓越しの小声にも関わらず、刹那、
その人は視線を迷わすことなく私をまっすぐ見つめた。

しっかりと目が合ったはずなのに、その人の瞳は何も映してなかった。



それは朝から暑い八月の最初の日のことだった。





























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送