人間って楽しいことがないと生きていけないと思う。

楽しいことがないって言っていてもきっと微小だけど楽しいことがあるんだろう。

じゃあ、奴はなにを楽しみに生きているんだろう?













































少し重たい屋上のドアを開ける。普通なら鍵はかかっているはずなのに今はかかってない。
やっぱりここに奴は来ているんだ。
ゆっくりと、焦らずに歩を進める。屋上に入って右側のちょうど日陰になっているところに向かう。

ほら、やっぱりいた。

コンクリートの硬い壁に背中を預けた少年が一人いた。
黒と茶色の間くらいの髪。色白で、二枚目半くらいの顔。
少年の名は香原俊彰。
つい数分前狂ったクラスメイトを重傷にさせた人。細身で筋肉なさそうなのに、何故こんなに喧嘩が強いのか。
それは香原の父親が柔道やってるとかそんなんじゃないのだ。
父親はもうとっくに死んでいる。生まれもっての才能なのか、どこかで鍛えたのかは私はわからないがとにかく喧嘩が強い。
この学校では知られていなかったみたいだけど。

座っている香原は私を見上げ、そして視線を地面に戻した。
相変わらず無表情だ。私だって笑ったところなんて片手で数えるほどしか見たことがない。
息を吸い込み言葉を発しようとした。


俊彰、と。


が、発音しようと思ったその時に下の名前で呼ぶなんてと躊躇し、一回口を噤んだ。
つい照れが入ってしまい中学の時からずっと香原と呼んでいるのだ。
けどつい癖で俊彰と呼ぶ。

私のその姿を下を向いている香原は見ていない。よかった、と正直に思った。
「香原。」
私が風に消されてしまうほどの小さな声で言った。香原は私の方を見ない。
一応目を見て喋りたいのでもう一度言う。

今度は、下の名前で。



「俊彰。」



香原はゆっくりと顔を上げ、私を見る。透き通るような綺麗な茶色の瞳が私を見た。
「・・・・・何。」
透明で綺麗な低い声。小さくて風に消されてしまいそうだった。
「助けてくれてありがとう。」
私はお礼を言うために屋上に来た。香原の瞳をしっかり見てお礼を言った。
「・・・・・・別に。それよりいつお前が俺の女になったんだよ。」

そういえば狂ったクラスメイトこと土井雅人は私を「てめぇの女」と言っていた。
すっかりそんなことなど忘れていた。
「知らない。・・・・俊彰が話すのって私だけだからじゃない?」
「・・・・・・。」
香原は私から目を逸らしフェンスの向こうの景色を見る。
私も香原の視線を追った。空は忌々しく青かった。

香原と私は幼馴染だ。家が隣同士とかじゃないんだけどまぁ近所で、たまたま幼稚園で仲が良くなり小中高と偶然一緒になったのだ。クラスは同じのときもあれば違うときもあった。
親同士が仲がいいため今でも時々一緒に食事するときもある。
香原は私よりも口数が少ないため私が話を進めなければならないという異常な事態になるのだ。・・・・別にいいけど。
香原は昔から人見知りが酷くって無口だった。不気味がられたり怖がられたりするのはいつものことだった。

私はそれがものすごく悲しかった。

少し冷たい物言いだが決して香原は冷たい人間ではない。むしろ温かい。
それを気づく同級生はほとんどいない。気づいてもやっぱり怖くて近づけないという人もいたかもしれない。
だから、私は進んで香原に話しかけるように努力した。そう思ったのは小五のときだったけな。

香原は私がいろいろ話しかけてもちゃんと相槌をうってくれる。適当そうだけどちゃんと聞いていることも知っている。
他の人は私が香原の彼女だと誤解されるらしい。たぶん、香原が別に拒まず私の話を聞いているからだと思う。

そう思いながら空を見ているとスカートのポケットから「トルコ行進曲」のメロディが流れてくる。
香原も私のポケットに目を向けた。
メロディにせかされず、私はゆっくりと携帯を取り出した。どうやらメールらしい。
この着メロはある人物にしかつけていない。

「藤沢君からだ。」
「啓太・・・・あぁ、なるほど。」
香原は藤沢君の着メロが「トルコ行進曲」である理由がすぐにわかったらしい。
藤沢君はあのせっかちなメロディがなんだか似合うのだ。いつもテンション高いし。

『やっぽー、美和ちゃんvv元気〜??
放課後俊彰と三人でお茶でもしないかい?近況報告会〜v
どうせ俊彰も暇だろ?俊彰にも言っといて。
俊彰って全然俺のメールの返事しないんだぜ?ひどいだろ??(泣
俺が放課後二人を迎えに行くから学校で待っててくれよ♪いい店見つけたんだぜ〜。』
メールの内容はこんなもの。
お茶・・・もとい近況報告会か・・・。
「俊彰、藤沢君がお茶もとい近況報告会を放課後しないかだって。」
「・・・・・・別にいいけど。」
香原は少し呆れた顔をした。

藤沢君は香原を理解してくれた人。香原の初めての友達。
人懐っこくていつも楽しそうで、とってもいい人。意外に気配り屋さんだし。
中二のときに三人とも一緒のクラスになって、顔の広い藤沢君は当たり前のように香原に話しかけた。
香原は最初は嫌そうだったけどいつしか藤沢君だけには打ち解けた。
二人は三年で違うクラスになっても仲が良くて、高校は違うところになっちゃったんだけど香原は週一くらいで会っているらしい。
香原は藤沢君と話すと少し表情がやわらかくなるし口数も増えるので私は嬉しいなと思いながら彼らの会話を聞いている。

「そっか。わかった。」
私はそんな香原を久しぶりに見れるので嬉しくなった。つい頬の筋肉が緩む。
それに藤沢君と会うのは高校に入って初めてだ。時々メールしてたけど。

『いいよ。近況報告会やろう。俊彰もいいって。
別に藤沢君が迎えに来なくてもいいんだよ?駅とかで待ち合わせでも。』
そう書いて送信のボタンを押す。
返事はすぐに返ってきた。
『やった〜。
あ、美和ちゃんと俊彰の高校の近くにいいカフェがあるんだ。だから俺が学校まで行くよ♪』
なるほど。藤沢君は私たちの学校の歩より駅より三駅ほど行ったところにある高校に通っている。だからそれほど遠くもない。
『そうなんだ。ありがとう。じゃあ待ってるね。』
『OKv』
私は携帯をポケットにしまった。

「藤沢君放課後迎えに私たちの学校に来るって。この近くにいいカフェがあるらしいの。」
「わかった。」
「あのさ、俊彰。」
ふと思ったときがあったことを思い出した。俊彰はなにが楽しみなんだろうかと。
その答えはすぐそこにあるではないか。
「いい友達もったね。」
「・・・・・・あぁ。」
それは藤沢君との会話かもしれないし、このごろ読書もしてるからそれかもしれない。
それに実際香原の楽しみなんてどうでもいいんだろう。
香原がここにいて、私が香原の傍にいれるかぎり。

香原は立ち上がった。教室に戻るらしい。私も香原の背中を追う。
「ねぇ、」
「何だ。」
「なんで助けてくれたの?」
素朴な疑問だ。本当に、単純に理由を聞きたい。


「・・・・・・・。」
「・・・・・・・。」
少しの沈黙の後、香原は小さく呟いた。






















「美和子だから。」






















私は心底俊彰が前を向いていてよかったと思った。



俊彰も私と同じことを思っていたなんて知りもしなかったけど。











ぎゃー、甘いよ奥さん!
「雲」と違い香原と絡んだ「空」の浅田は予想以上に乙女ティック☆になってしもうた!!
なんかこの小説はなにが書きたいんだかわからんよねー。
まぁ浅田美和子の日常を書きたいのかも・・・しれない。
んまぁそんなことはどうでもいい(ぇぇ
幼馴染以上恋人未満な浅田と香原が大好きです。
















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送