女の不満と氏の本音 −after story−









『大体、もうちょっと私に優しくしなさいよ!!
もう少しかまってくれてもいいじゃない!!そっけなすぎるのよ!!
クールビューティーだかなんだかしらないけどクールすぎるんだよ、バカ!!!!
遊びだったら一年も付き合うなよっ!!期待しちゃうじゃないか!!
あんたなんか隣の安っぽい女と遊んでりゃいいだろ!!バカ!アホ!男のクズ!!!
そんなに私のこと嫌いならこっちから別れてやるよっ!!!
いっぺん地獄に堕ちろ、クズ!!!』


そうマシンガンのごとく言われた後、俺は鞄で頭を殴られた。
女に鞄で殴られたのは初めてだったが、かなり痛かった。
隣でぽかんとした顔の女がいた。そんな女どうでもよかった。
沙代子が怒ったことが面白くて、そして怒ってくれたことが嬉しくて、笑った。

久しぶりにあんなに笑った。








前に、名前も知らない女に言われたことがあった。
『あんなどこにでもいるような普通な女のどこがいいの?』と。
だが俺にしてみれば沙代子はどこにでもいるような普通な女ではなかったりする。

沙代子は確かに性格も素直じゃないし、口も悪い。
口喧嘩なら誰にも負けそうにない。
女を捨てたようにスカートなのに足広げるし、大きく口を開けて笑う。

上品とも言えないが、だからといってそこらのギャルより常識を理解している。
頭もそこまでよくなくて、中の中と普通だけど人間的に馬鹿ではない。
顔も飛びぬけて可愛いわけではないが不細工でもないけど、笑った顔なんか可愛い。

それでもなんだかんだ言って女の子だし、俺の前では女らしくしているみたいだ。
このごろは飾ることを止めたらしく、男らしいが。



一年前告白されたときは驚いた。そしてとても嬉しかった。

俺みたいな奴を好きになるタイプではないと思ったからだし、
俺もクラスで楽しそうに笑う彼女を気になっていたからだ。
どうも俺は話すのが苦手で、人見知りが激しく、特に女と喋ることは苦手だ。好きな女なら尚更。

女のことなんて知らないし何喋って良いかもわからない。
告白なんて一生無理で、このまま卒業していくのだろうと半ば諦めていたのだ。
だから告白は結構予想外だった。

彼女はいっぱい面白いことを喋ってくれて聞いていて飽きない。
高校になって俺の知らないところでの話が多くなって少し寂しくもあった。
俺がそんな情けない奴だったため喧嘩して本気で別れられそうになったが、
それはさすがに困るのでできるかぎりいっぱい喋って説得して今も付き合っている。

そして今、喫茶店でお茶を飲んで沙代子の話を聞いていたりする。



「そんでさ、りっちゃんは彼氏とラブラブなわけなのよ。」
喫茶店についてから喋りっぱなしだが疲れていないのがすごいと思う。
「・・・・・そんなに羨ましいのか。」
羨望しているように見えるので言ってみた。
俺はやっと沙代子と結構喋れるようになった。
慣れてきた・・・というには遅すぎるが。

「羨ましい・・・といえばそうだけど、私と英二がらぶらぶなんて気持ち悪くない?」
確かにその通りだ。二人とも(特に沙代子は)そんな柄でもないので気色悪いと思う。
「・・・・そうだな。このままで不満はあるのか?」
前みたいに不満を一気にぶつけられて別れるなんて言われたら困る。
俺は鈍いらしいので乙女心がさっぱりわからない。
なので沙代子の本音や不満はしっかりと聞いておきたい。

「別に。だって英二前より優しくなったし喋るようになったし。
学校にも迎えに来てくれてこんな感じに放課後喫茶店なんかでお茶できてるじゃない。
それだけでいいよ。十分今のままで良し。」
沙代子はにっこりと笑った。幸せそうに見えたのは俺のエゴかもしれない。

「・・そうか。」
「・・・・・・・!!!」
急に沙代子が驚いた顔をする。
別に「そうか」と言っただけなのだが、何か変なことをしただろうか。

「え、英二が笑った??!!!」
椅子を蹴るように立ち上がり、テーブルに手をついて俺を凝視する。
まるでクララが立った!とでも言うくらいの勢いだ。

「俺だって人間なんだから笑うのは当たり前だろう。」
「そりゃそうだろうけどさ・・・」
何を珍しがっているのか・・・まぁ普段あんまり笑わないけど。

「初めて見たよ・・・・あんた私以外の女の前でぜっっったい笑ったら駄目!」
まだ興奮気味だが椅子に座ってアイスティーを飲んで落ち着いた。
「・・・・なんで。」
俺の笑顔は無意識であり、するなと言われてもしてしまうので難しいと思うんだが。

「女の子が誤解しちゃうからよ。自分のこと好きじゃないかって絶対に勘違いする。」
沙代子は力強く断言した。その迫力に圧倒されて俺はあぁと返事をしてしまった。

できない約束はするべきじゃなかったかな・・・。
まぁ他の女の前で笑うことなんて今までもなかったからこれからもないだろうから大丈夫か。
「いいよ。どうせ沙代子しか俺のこと笑顔にできないだろうし。」
そう言うと沙代子は耳まで顔を真っ赤にした。・・・またなにか変なことを言っただろうか?

「あんたねぇ、なんでそういう恥ずかしいこと言うのかね・・・」
沙代子は気を紛らわすかのようにストローでグラスをかき混ぜる。
「・・・・・事実を言っただけだが。」
「はぁー。あんたって鈍感ていうか天然ていうか・・・。」
呆れたように言われたが顔は笑っていた。

「幻滅したか?」
「別にー。そんなんだったらとっくに別れてるわよ。
それにこんな粗い性格の私にあんたはとっくに幻滅するならしてるでしょ?」
「そうだな。」
沙代子はさっきとはまた違う感じで顔を少し赤く染めた。

「よく顔が赤くなるな。・・・・熱でもあるのか?」
「阿保。鈍感。馬鹿。天然系たらし。」
「・・・・そこまで言わなくてもいいだろ。」


俺たちは外が暗くなるまでどうでもいいことを延々と喋り、笑っていた。

それは雨上がりの午後の幸せな時間だった。



































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