なんでこうなってしまったんだろう。
とりあえず私がいけないのはわかっている。

「・・・・完全に見失ったな。」
「・・・・・そう、だね。」

もうこの際困った状況はどうでもいい。
とにかくこのうるさい心臓を止める方法を誰か教えてください。


















「やっぱり、夏といえば花火よね。」
部活中にそう言い出したのは恵梨だった。
「花火か〜。いいね、夏って感じで。」
今年一度も花火を見ていない。
「でしょ?ねぇ、うちの近くで今度大きな花火大会やるの。みんなも誘って行かない?」
「いいね、賛成!」


で、集まったのは仲良しの紗江美と亜紀子。
そして二人の彼氏の高月くんと藤元くん。
あとサッカー部の金子くんと何故か東くんが来た。
私は東くんが来るなんて知らなくって、急いで恵梨の腕をひっぱった。

「恵梨!どういうことよ?!」
私が詰め寄ると、恵梨はにやりと笑った。
「どうせあの知り合った日から進展ゼロでしょ?
亜紀子に頼んで藤元くんに誘ってもらったのよ。ありがたく思いなさい。」
図星だが全然ありがたくない。
確かに夏休みで会えなくて残念だったけど、こんなの無理だ。

困っていても花火を見るわけで、よく見える土手へ続く屋台が並ぶ道を進んでいく。
人とぶつかるのは避けられないくらい大勢の人だった。
自然と付き合っているもの同士が並んで歩くわけで、最後尾が私と東くんとなった。

東くんはゆっくりと隣を歩くだけで、あまり喋らない。
私はもう頭がぐるぐるしてどうすればいいかわからない。
東くんが来た時点で私の頭はヒートしていたのだ。

どっちとも無言で、なんだか気まずかった。
話したい。
でも何を喋ればいいかわからない。
土手への道が延々と続くように感じる。

楽しそうに笑う浴衣を着た人が、恋人らしき人と歩いている。
どうせなら浴衣でも着てくればよかった。あんな風に笑いたい。
今の私は緊張で全然楽しめない。

「わっ」
ぼんやりとよそ見をしていたせいか、もろに人とぶつかった。
よろけてしまったがなんとか体勢を立て直す。


「・・・平気か?」
行きかう人々の声がうるさいため、東くんの声も聞こえにくい。
「うん、平気。ごめんね。」
全く情けない。
自分を叱咤して歩こうと前を見ると、人ごみが見えるだけで、前にいた恵梨たちが見えない。

「・・・あれ、」
私はついそう呟いてしまった。
止まっている私達の横を人がどんどん通り過ぎていく。
そして、みんなは見えない。隣の東くんもそれに気がついたらしい。

「・・・・完全に見失ったな。」
「・・・・・そう、だね。」
決定的な言葉を聞いて、奈落に突き落とされる気分だった。
完全に、非の打ちどころがないくらい私が悪い。

「ごめん!!私のせいで・・・」
「別に気にしてねぇよ。とにかく連絡してみるぞ。」
「・・・うん。」
いつもと変わらない態度で東くんは携帯を取り出す。
・・・怒ってないかな。

「・・あぁ、俺。はぐれた。」
うるさいためか、東くんは少し大きな声で話していた。

やることがない私はぼんやりと東くんのことを見ていた。
制服しか見ていないため、Tシャツ姿は新鮮で不思議な感じがした。
考えてみれば図書館以外で会ったのは初めてだ。


静かな空間で、ゆっくりと話すのにやっと慣れてきたところなのに、
こんな人が大勢いるところで二人きりになるのは緊張する。
周りからは恋人同士に見えないかな、と馬鹿なことを考えてしまう。


「木村、」
「は、はい!」
ぼんやりとしていたため、声をかけられてびっくりしてしまった。
眉間に皺を寄せて携帯を突き出す東くんはなんだか機嫌が悪そうだった。
・・・やっぱりはぐれたことに怒ってる?

「日高がお前にかわれだと。」
日高とは亜紀子のことだ。
「ありがと。」
携帯を受け取ると、亜紀子のくぐもった声が聞こえた。

『美雪?』
「うん。ごめんね、はぐれたりして。私が悪いの」
『別に気にしてないわよ。これから別行動らしいね。頑張ってね。』
「え?・・・え?」
別行動?何の話かさっぱりわからない。

『聞いてないの?もう合流するの大変だから二人で楽しんでね。』
あっさりとそう言った亜紀子が悪魔の声に聞こえた。

「そ、そんなの無理!!」
『平気よ。仕方ないことでしょ?それにラッキーじゃない。』
「・・・そ、そんな・・・」
さっきからずっと無言で気まずかったのに、しかも今怒っているみたいだし、
これから花火を見て帰るまでずっと一緒って・・・


『ま、一緒に見れないのは残念だけどね。あとで話聞かせてね。』
「亜紀子!」
そう呼んだところでブチッという小気味良い音をたてて通話が切れた。


「・・・・ありがとう・・・」
ひとまず携帯を東くんに返す。これからどうなるんだろ・・・
「・・・じゃあ、行くか。」
「うん。」
うるさい人々の中、私達は静かに歩き始めた。



短い時間なのだろうが、二人きりの沈黙が耐えられなくて私は勇気を出して話しかけた。
「・・・あ、あのさ、」
「ん?」
「東くんて花火とか毎年見るの?」
「いや・・・小学生以来だな。あんま興味ないし。」
「へぇ・・・でも夏って感じしていいよね。私は毎年見てるんだ。」
「へぇ、そうなんだ。まぁ日本の夏って感じするよな。」

ぽつりぽつりと喋りながらゆっくりと土手へと行く。
話していく内に緊張が解けて来て、笑えるようにもなってきた。


途中で林檎飴のお店を見つけた。
そういえば昔よく食べたなぁ・・・。

「・・・林檎飴、食いたいのか?」
「え?いや、そうでもないけど・・・なんで?」
「じっと見てたから。」
東くんは少し面白そうに笑う。
そんなにじっと見ていただろうか?・・・恥ずかしい。

「・・・買うか。」
そう言って林檎飴のお店へ行く東くんに焦って、慌てて追いかけた。
「え、いいよ!自分で買うし!!」
「あのなー、一応俺は男だぞ?おごらせろ。」
困った笑顔をされて、頷くしかなかった。









「・・・・綺麗だね、花火。」
土手で花火は綺麗に見えた。
左手には食べかけの林檎飴。そして隣には東くん。もうなにも言うことはない。

「たまにはいいな、こういうのも。」
そう言って口許を上げる東くんに見惚れそうになった。
頬が熱くなるのを感じる。

暗くてよかったなと思いながら、林檎飴を舐める。
「・・・うまい?それ。」
「うん、美味しいよ。ありがとう。」
「・・・・・・。」
じっと東くんが林檎飴を見つめる。

「・・・・どうかした?」
花火の音が響く中、私は首を傾げた。
「一口ちょうだい。」
「え」

私が答えるよりも先に、左手が大きな手に包まれた。


序奏






(私の中で響く花火の音)





























おまけ



「ねぇ、亜紀子〜!東くんたち見えないんだけど。」
恵梨ちゃんの声で、先頭にいた俺たちは聡と美雪ちゃんがいないことを知った。
「ま、この人の量じゃはぐれても仕方ないか。」
亜紀子は別に心配してなかった。
確かに聡と一緒にいるだろうから心配の必要はなさそうだ。

「あ、電話っぽい。」
俺のポケットから小さな振動が伝わる。
「東くんかな。」
亜紀子の声にそうだろうなと思いながら出る。


「聡?」
『・・あぁ、俺。はぐれた。』
「やっぱりか。人多いし仕方ねぇな」

『・・・・・あぁ。どうする?』
「仕方ねぇな〜・・・どうせだから二人で楽しんでろ。結構気になってるんだろ?」
『あぁ?』
「そう不機嫌な声出すなって。
お前がいくら俺でも女と花火見る趣味なんかないことわかってるぜ?」

『・・・純』
「皆まで言うな。それに事故だし、怪しまれはしねーよ。ちゃんとエスコートするんだぞ?」
『・・・純平・・・・後で一発殴らせろ。』
「むしろ感謝しろ。・・・あ、亜紀子が美雪ちゃんにかわってくれって。」
『・・・わかった。』

あの可愛らしい美雪ちゃんの恋が叶えばいいなぁと俺はぼんやり思った。

























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