霞む頭と君の微笑みと優しい嘘と抱擁を











































夏の終わりのあの日から、俺と香乃が会うことはなかった。
夏が終わり、秋が来て、秋も終わり、冬が来た。

「今年のクリスマス、クラスでパーティーするってのはどうだ?」
クラスの明るい男子がそう言い出し、皆その話にのってくる。
「いいじゃん、それ。」
「やろーよ。どこかの公民館でも貸してもらって」
「ねぇ、槇野くんも行くよね?」
ちょうど隣にいた女子が下心丸見えで聞いてくる。
「・・・いや、やめとく。」

クリスマスか・・・毎年クリスマスはいつもの平日と変わらなく過ごしている。
いつもと変わりなく香乃が来て、やっぱりぬいぐるみを抱いて寝る。
俺はいつも通り香乃の寝顔を眺めたり本を読んだりする。
クリスマスパーティーなんて行ったことがない。

「俺もパス。」
前の席から聞こえたきた明るい声の主は及川。
「パス?珍しいな、お前が・・・。」
及川は冷静だけど遊ぶときは遊ぶ奴で明るいし面白いからパーティーを行くとばっかり思っていた。
「おいおい、槇野。クリスマスといえば恋人のイベントだろ。」
得意げな顔で言いたいことがよくわかった。
「あぁ・・・・彼女と二人きりで過ごしたいと。いいんじゃねぇの。」
及川には綺麗な彼女がいるのだ。名前は・・・・真帆って言ってたっけ。

「ありえないことに去年は断られてさ、今年こそと一年前から約束してるから。」
困った顔をしているくせに及川は幸せそうだ。
「楽しんでこいよ。」
及川はなんだかこっちも笑みが零れてしまうほど明るくて、幸せそうな奴だ。
そういうところが良いから友達とか多いんだろうな。
「そういうお前は彼女いないんだよな。こんな美形の男に彼女の一人もいないなんて世の中おかしいよなぁ。」
にやにやと笑う及川に俺は溜め息をつく。
「別におかしくていいし。クリスマスだからって出かけたことないからそういうの興味ないんだよな。」
クリスマスだろうが正月だろうが香乃はいつも俺の部屋に来るからそのために俺は窓の鍵を開けて待っているのだ。
だけど今年はそれもないのか・・・・・。

「槇野クン、君なんか悩んでる?」
にやりと笑った及川を見て、俺は後悔した。
こいつは無駄に鋭いのだ。油断すると心の奥を見透かされてしまうそうなのだ。
「・・・・・お前ってホント無駄に鋭いな。」
「無駄は余計だろ!・・・・もしや、恋の悩みだったりして?」
もう、いいか・・・。クラスの奴はクリスマスパーティーのことで騒いでるから聞こえないだろ。
「断じて恋じゃないけど、女のことでは少し困ってる。」
「お、槇野の初恋?!」
「黙れ、喋らねぇーぞ。」
「冗談通じないなー。」
及川は文句を言いつつ、目は真剣に俺を見ていた。

「ちょっと前に別れもなしに勝手に引っ越されて今どこ住んでるのかもわかんねーんだよ。
で、なんか後味悪くってな・・・学校は変わってないらしいけどそこに行くってのもなんかな。」
なんで俺はこんな赤裸々に話しているんだろう。もうわけわかんねぇ。
「・・・・・行けばいいじゃん。」
とても軽く、当たり前だと言わんばかりに及川は言った。
「お前他人事だからってそんな簡単に・・・・」
「そりゃ俺は他人事だから簡単に言っちゃうけど会いたいなら会いに行けばいいじゃん。」
とても簡単な答えだが、行きにくい。

「ま、男は度胸だ。今日の放課後でも行ってみろよ。」
にっこり笑って及川は俺の肩に手を置く。
「なんで今日なんだよ・・・」
「決まったら即行動!それが俺のモットー。」
・・・・・もう決定事項なのか・・・・・。
「・・・・わかったよ、行くよ。」
溜め息と共に俺は決心した。



で、来たものの校門で待っていても一向に香乃は現れない。
来るのは邪魔な女ばっか。
「ねぇ、これからうちらと遊ぼうよー。」
「断る。」
「名前なんて言うのー?うちに知り合いいるわけ?」
「お前らに関係ない。」
部活動をしない生徒の下校の波が終わり、俺は人のいない校門に立っていた。

もう帰ってしまったのかもしれない。と、いうか会ってなにを喋ればいいんだ?
そもそも及川の話術にはめられただけか?だがここまで来たんだから香乃に会っておきたい。
俺の思考はぐるぐると回っていた。
空は曇り空で雪でも降りそうだ。寒い。
香乃がいなくなってから俺の心にはわけのわからない焦燥感と理解不能な気持ちがぐるぐる回っていた。
こんなに離れるのは初めてで、俺は寂しいのかもしれない。
最後に見た香乃のふわりと笑ったあの顔ばかり思い出す。


「薫?」

































その姿を見たとき私の思考は寒さで凍ったかのように一瞬真っ白になった。
私は教室で少し本を読んでからいつものように下駄箱に行って靴を履いて校門に向かった。
そしてその校門には何故か、薫がいる。
「香乃・・・・」
薫は少し寒そうだった。もともと色が白いので、なんだか不健康そうに見える。
「・・・・どうしたの?」
そうとしか聞きようがなかった。なんでこんなところにいるのかわからない。
薫は何がおかしいのかわからないがくすりと笑った。
「俺にもよくわからないけど、香乃に会いに来た。」
その言葉が私の心の凍りを溶かすように、胸にじわりと刻み込まれた。

別れもろくに言わずにあの家から出て行ったのは薫と離れるのが寂しかったからかもしれない。
そして、私がお母さんのところへ行ったというのは嘘だ。
私は今一人暮らしをしているのだ。もちろんお金は両親から銀行に振り込んでもらっている。
そんなこと薫には言えなかった。心配かけるし、反対されるだろうし。

でもその優しい嘘は罪悪感しか生まなかった。
やっぱり寝れなくて、とても薫の部屋が恋しかった。そして、薫に会いたかった。
前よりずっと視界が暗くなった気分で、ずっと夜みたいだった。
寂しかった。

「うん・・・私も。」
久しぶりに見る薫はなにも変わってなくて、しいて言うなら前髪が伸びたくらい。
それなのに、涙が出そうだ。
私は自分を誤魔化すために校門をくぐり、薫に近づいた。
「ごめん・・・・私、嘘ついたの。」
震えた声にならないように気をつける。
「私、今一人暮らししてて・・・お母さんのところ行くってことは嘘。」
薫の顔が見れなかった。薫に嘘をつくなんて初めてだし、軽蔑した目で見られそうで怖かった。

「・・・・香乃、」
返ってきた声は驚くくらい優しかった。そして、冷たいコートの感触。
私は薫に抱きしめられていた。
「薫?」
「お前一人で大丈夫なのか?」
「・・・・・・あんまり、大丈夫じゃないかも。」
何故なら薫の部屋とぬいぐるみと薫がいないから。
溜め息が上から聞こえた。それは呆れ?

「じゃあ今度熊をお前にやるよ。別にいらねーし。」
心地良い薫の声。安心して眠くなりそうだ。
「・・・・うん。」

今日の夜はよく眠れそうだ。




































暁【あかつき】・・・夜が明けかかるとき。期待していたことが実現する、そのとき。(例解新国語辞典より)

冒頭の言葉はサブタイトル風味。実は「シャボン玉」と繋がってたり。
わかる人にはわかる及川登場(笑)結構気に入っているので・・・意地悪い人は大好きです(うわ































おまけ



真帆「・・・・なんか機嫌いいね。」
及川「わかる?(にやり)」
真帆「・・・・・・また誰かにちょっかい出したんでしょ。相変わらずそういう性格してるのね。」
及川「ひどいなー。俺は恋のキューピットをしたんだぞ。」
真帆「誰の?」
及川「うちのクラスの槇野薫♪」
真帆「・・・へぇ。あの美形の人と友達なの。」
及川「うわ、つり合わないって顔してる。むかつくなー。薫ちゃんはじれったくて、のせやすいよ♪」
真帆「(槇野くんご愁傷様・・・)それはよかったわね。」
及川「それよりさ、クリスマスどこ行こうか。」
真帆「別にどこだっていいよ。」


そんな仲良しな二人。
















SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送