俺は中三の時に奇妙な二人に出会った。













































中学二年のとき、クラスに入るとすぐに目に入ったのが俊彰だった。
結構かっこいい顔をしていた、という理由ではない。
どこか自分の中に入ってこないようにバリアーをはっているようだったから。
それと、馬鹿っぽい男子とは全然別だったから。

面白そうな奴だなと思って話しかけたが完全無視。
一週間しつこく話しかけてみるとやっと「あぁ・・・」と答えただけだった。
一週間話しかけ続けてわかったことが一つあった。
俺を完全に無視しているわけではないのだ。そう見せて、ちゃんと聞いている。
それがわかって俺はすぐに俊彰を気に入った。

そのころ、三年の先輩に無口な俊彰は呼び出されてリンチにされるということが起こった。
それを聞いて急いで裏庭に行くと生徒がいっぱいいて、その中心には三年の先輩数人を倒した俊彰がいた。
俊彰は無傷だったのがあいつらしいと思って小さく笑った。
その事件の後から俊彰はみんなから怖がられた。
けど俊彰はそんなことどうでもいいらしく、そんな態度がまた気に入って今まで通り一方的に喋りかけていた。

そんなある日、俊彰に言われたことがあった。
「お前はなんで俺にかまう?」
俊彰から話しかけられたことに多少驚きながら俺は平然と言った。
「気に入ったから。」
ものすごくうっとおしそうな顔をされた。
「俺は三年を倒したって怖がられてんだぞ。」
「・・・・・そんなに俺のこと怖がらせたいの?」
俊彰の言葉がおかしくって俺は笑った。
「俊彰なんて全然怖くないよ。あ、いや実際掴まれたり殴られたりしたらこえーけどさ、理由も無くやりそうにないし。」
「・・・・・・もういい。」
それはなにがいいんだ?と聞こうと思ったがいい加減嫌がられそうだからやめておいた。

その日から俊彰は少しずつ俺と喋るようになって打ち解けるようになった。
あの「もういい」は「お前とは友達でいてやってもいい」という意味が勝手に解釈している。
そしてずいぶん仲良くなった中三の春、初めて彼女の存在に気がついた。
結構観察力は結構あるほうだと思っていたが、どうやらまだまだだったらしい。
いや、二人の関係が異常だったからかもしれない。

その日はたまたま動教室でかったるい気持ちで理科室へと向かう途中、廊下に俊彰が立ち止まっているのを発見した。
俺と俊彰は気に入って友達といっても教室を移動するときまで一緒なんて気持ち悪いことをしない。
廊下には俺と俺の少し前に俊彰と・・・・女の子がいた。

俺は動揺のあまりつい影に隠れてしまった。
彼女・・・・?まさか、・・・いやでも結構かっこいい顔しているし・・・。
というより俊彰が女の子と喋っているところを初めて見たぞ?
思考をぐるぐると回しながら二人の会話に耳を傾ける。どうやら二人は俺に気づいてないらしい。

「・・・・き?」
小声でよく聞こえないダンボの耳になって聞き取る。
「別に平気だ。」
「そう。おばさんから聞いた?明日の夕食。」
落ち着いた声だった。柔らかくて、優しい。
「聞いた。久しぶりにお前の両親と会うから喜んでた。」
「うちもお母さんが俊彰君を久しぶりに見るってはしゃいでたわよ。」
「・・・・・あぁ、この前まで海外転勤だったからな・・・・」
「うん。」
少しの沈黙。別に、息苦しく感じることはなかった。

「俊彰さ・・・・・・・半年前くらいから楽しそうだね。」
声音を聞いて、彼女は微笑しているのかなと思った。
半年前?・・・・俺と打ち解けたくらいか?いや、自意識過剰すぎるぞ。
「・・・・・・。」
「よかったね。」
彼女には俊彰が楽しそうにしている理由がわかっているみたいだ。
「・・・・・・・あぁ。」
予鈴が鳴る。
「じゃあね。」
キュッと上履きの音がした。
「あぁ。」

・・・・・・・・・・ほぼ一部始終見ていたが・・・・・驚き、だ。
驚き、衝撃、とでもいえばいいだろうか。
俊彰があんなに喋るし、あの子とは親同士も仲が良いらしい。
それにどこか・・・俊彰が優しい気がする。
わかりにくいけど彼女と俊彰は見えない糸でつながっている・・・気がする。

気になる・・・・。
俊彰が心を許している人(それも女)がどういう子であるか見てみたい。
たんなる好奇心を否定はできないけど、興味をひく。

こそこそ俊彰の周りを調べるのも嫌だし、ストレートに聞いてみることにした。
「なぁ、俊彰って彼女いるのか?」
「・・・・・・・・。」
この手の質問は初めてなので、俊彰は少し驚いていた。
一年間付き合って俊彰のいつも無表情にしか見えない微小な感情の変化を読み取れるようになっていた。
「・・・・いない、けどそれに近い奴はいる。」
「否定も肯定もできないような?」
俊彰は小さく頷く。つまり恋人未満ってことか?
「どんな子?」
俊彰は珍しく顔を歪めた。
「そんなことがなんで気になるんだ。」
「好奇心は否定できないけどさ、俊彰が心を許している女の子を見てみたいわけ。」
「・・・・・・・・。」
言葉で表現できない複雑な表情を俊彰は見せたが、ぽそりと呟いた。
「三年A組浅田美和子。」
「さんきゅv」
俺はそう言ってにっこり笑うと俊彰は少し困った顔をした。

「浅田美和子っているー?」
放課後、SHRが終わるとすぐにA組に向い、教室の人に少し大きな声で言った。
「啓太。」
ドアの傍に友達がいた。ちょうどいい。
「よ、遠藤。浅田ってどの子?」
「・・・・・お前物好きだな・・・」
遠藤は珍獣を見るような目で俺を見た。物好きってどういう意味だ?

「あの髪の毛が胸まである奴。」
遠藤の視線を辿って真ん中らへんの席を見ると、胸までの真っ黒な髪をした少女がこちらを見ていた。
俺は少女に近づく。
「初めまして。おれは藤沢啓太。よろしく。」
にっこり笑うと浅田美和子は数秒じっと俺を見てから、歩き出して教室を出て行ってしまった。
俺も彼女を追いかける。

「ちょっとー。浅田さーん。」
校門を出ても彼女は無言でつかつかと歩いていってしまう。
俺は一定の距離を保ちながらゆっくりと彼女についていく。
俺と彼女しかいない住宅街の公園につくと、彼女はやっと振り返った。
「何か用ですか。」
感情のこもってない言葉だった。先日聞いた俊彰と喋っている声とは印象が違う。
「そんなに硬くならないで楽しくおしゃべりしようよ。」
彼女は不審そうにじろりと俺を見る。
うーん、俊彰もこの子も揃って警戒レベルが高いなぁ・・・。
「俺、香原俊彰の友達なわけ。で、君と俊彰はどんな関係なのか聞きたいなと思いまして。」
日本人形のような落ち着いた印象の彼女だが今は毛が逆立った猫のようだ。
「別にそんなこと貴方に言わなくてもいいでしょう。」
「まぁ、そうだけど。」
あっさりそう言うと彼女は少し間抜けた顔をした。

「でも友人として知りたいなぁって。あの俊彰が心許してる女の子を。」
優しく笑うと彼女は小さく溜め息をつき、公園のベンチに座った。
「どうぞ。私でいいなら俊彰と違って聞いたらなんでも喋ってあげますよ。」
今度はこちらが間抜けた顔をした。あっさり警戒をとくんだな・・・。
「ありがとう。」
彼女の隣に腰を下ろした。


「じゃあ初めに俊彰との関係は?」
「幼馴染です。」
「恋人じゃあないの?」
「違います。」
「あと敬語やめて。堅苦しい。」
「・・・・・・わかった。」
「幼馴染かー。幼稚園くらいから?」
「うん。家が近所だったから親同士が仲がいいの。」
「で、なんで俺とは喋ってくれたの?」
「・・・・・貴方は俊彰を傷つけないし、馬鹿な人じゃないし、俊彰からも信用されているし、話しても大丈夫だと思ったから。」
「ありがとう。」
「貴方のことは知っていた。・・・・藤沢君は俊彰の初めての友達だから。」
「初めて?」
「・・・・昔からあんな無表情で不器用だからみんなから怖がられてイジメをうけて気味悪がられたから。
俊彰を理解してくれる同い年の男子なんていなかったの。結構男の子って幼いでしょ?」
「確かに。」
「藤沢君と友達になれて俊彰もとっても喜んでるよ。」
「いや、そうは見えないけどな・・・」
「わかりにくいけどね。けどきっとそう思ってるよ。」
「美和ちゃんがそう見えるならそうなのかもな。何年も付き合ってるだけあるし。」
「美和ちゃん・・・・」
「そう呼んじゃだめ?」
「・・・・・・別にいいよ。」


彼女は俊彰の話をするとき少し寂しそうで優しい微笑を浮かべる。
俊彰と美和ちゃんのとっても微妙な関係が理解できた気がした。


















「藤沢君、コーヒー冷めてるよ。」
美和ちゃんの可愛らしい声で俺は思考の渦から現実に戻った。
「あ、あぁ。ごめん。」
苦笑いしてもう冷たくなったコーヒーを飲む。
俊彰は隣で目を閉じ腕を組んでいた。寝ているかどうかはよくわからない。
「疲れてるの?」
美和ちゃんはもうティーカップを空っぽにしているようだった。悪いことをしたな。
「いいや。ごめんね。なんかぼけーと物思いにふけってて。」
「そう。」
深く追求はいつもしてこない。必要なことはちゃんと言ってくれると知っているからだ。

「もう帰ろうか。暗くなってきたし。」
俺が疲れていると思って気遣ってくれているのかなと思った。
「あぁ、そうだね。俊彰、」
「あぁ。」
俊彰は席を立ち上がる。美和ちゃんは伝表を持っていたが取り上げた。
「暇な時間を作っちゃったでしょ。おごるよ。」
「・・・・じゃあ、お言葉に甘えるわ。」
二人といても俺が喋らなきゃあまり喋らない。
無言でも別にきまづくないし、一言二言しかしゃべらないでぼけーとして終わったこともあった。
のんびりとした時間を過ごしている。

駅へと向かう道は遅くなったせいで少し人が多かった。
前を歩く美和ちゃんの肩に人がぶつかった。
美和ちゃんの隣を歩く俊彰はものすごく自然に美和ちゃんの右手を握り自分のほうに引き寄せた。
少し驚いた美和ちゃんは俊彰を見上げたが俊彰は前をそのまま見ていた。
微笑して、「ありがとう」と口が動いたのがわかった。

二人に言葉はあまりいらないのかもしれない。
目で見ればほとんどのことがわかってしまうから。

ゆるく握った少し小さな手と大きな手を見て俺は優しく笑った。
この奇妙な関係の二人を見ると俺はとても優しく温かい気持ちになれる。



























この「雲」シリーズ(になっちゃってるし)は意味不明さなら天下一品だと思います(笑
微甘という拍手リクに対してものすごく糖分がなくなった気が・・・します。
ともかく客観的(藤沢君から)見た二人はこんな感じに映るというお話。














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