「奥野ォ。ちょっと面貸せ。」
授業から一時解放される、至福の昼休み。
教室の扉に寄りかかりながら、木村は言った。

「もうちょっと可愛く呼び出せないのか、お前は。」
俺は食べかけのパンを机に置いてきぼりにして、木村のところへゆっくり歩いて行く。

「ちょっと不良っぽく言ってみただけよ。今大丈夫?」
「昼メシのパンを食い途中だからダメ。」
「よし、ついてこい。」
俺の言葉をにっこりと笑って切り落とした。
木村はさっさと廊下歩き始めたので、俺は仕方なくついていった。




「って、なんでこんな寒いところに来るんだよ!!」
「だって誰もいないじゃない。」
木村はあっさりと言い、フェンスへと近づく。
確かに冬の屋上に来る馬鹿はお前くらいしかいないよ。

屋上では容赦なく冷たい北風が俺に当たる。
寒いという言葉が常に頭の中にあって、いらいらするが振り払えない。
木村の肩までのさらさらの髪の毛が、強風でなびいている。

木村とは中2のときクラスが一緒になって、やたらと気が合うので女友達になった。
160と女子では低くも高くもないが、いつも背筋を伸ばしてピシッとしている。
スカートはそこまでミニでもないし、顔だって悪くない。
けれど、サバサバとしていたり、男勝りな性格のせいであまり目立っていないが。


「で、なんだよ?」
早くこの寒い屋上から去りたい。
「あ、私奥野のこと好きなのよ。」
あ、教室に忘れ物しちゃった。くらいに軽い言い方だった。
俺は口を開いたまま、数秒呆然としてしまった。


「・・・・お前、今、なんて言った?」

俺の言葉に何故か木村は俺に背を向ける。
「私、木村朝子は3年D組の奥野忠(ただし)が好きだーーーー!!」
「うわ、馬鹿!!なに校庭に向かって叫んでるんだ!!」
俺は思わず木村の頭を軽く叩いた。
顔から火が出るくらいに体が熱くなっていることがわかった。なんで俺が照れてるんだよ。

「痛いわね。ただ叫んでみただけなのに。」
「叫ばんでいい!!」
俺は叫ぶような大声で突っ込みを入れた。

「ちょっと未成年の主張みたいよね。」
感慨深そうに言うが、とても恥ずかしいことだと思うぞ。
「まぁそのことを言いに来たのよ。教室で叫ばれたら迷惑だと思ったから、屋上で叫んだの。どう?この広い心。」

教室でも屋上でも学校で叫ばれるのはどこでも迷惑だが。
という言葉は俺は広い心を持っているから飲み込んでおいた。

ここまで緊張感のない告白現場はあるのか?
俺は木村が馬鹿っぽく叫ぶあまり告白されたことをうっかり忘れるところだった。

木村は女友達だ。俺の中ではそれ以下でもそれ以上でもない。
と、いうか木村の女っぽいところはひとつも見ていない気がするから、意識することさえなかった。


「って、なんで帰ろうとしてるんだよ!」
木村はさっさと俺の横を通り過ぎ、屋上の扉のドアノブを握っていた。
「こんな寒い場所にずっといたくないじゃない。」
「連れてきたのはお前だろがっ!!・・・じゃなくて、返事は聞かないのか。」

「返事は聞かなくてもわかってるわよ。どうせ女友達としか思ってないんでしょ?」
木村は別に傷ついた風もなく、淡々と言った。
「確かにそうだけど、付き合おうぜ。」
「なにその態度。」
俺の言葉が気に入らないようで、木村は眉間に皺を寄せた。



「半端な気持ちで付き合うなんて嫌よ。」



むっとした表情は、俺が言うのもなんだが恋する女の子の表情に見えた(可愛らしいというか怖い表情だけど)

「お前といると楽しいってだけじゃダメなわけ?」
「・・・・・・。」
木村はまだ不満げな顔をしていたが、ふとその表情は和らいだ。

「ま、いいってことにしてあげる。」
「なんでそんな偉そうな態度なんだよ。」
これじゃあまるで、俺が付き合ってくださいと言ってるみたいじゃないか。

なんだか負けた気持ちになっていたら、木村がいつの間にか屋上にいないことに気付いた。
「あれ、あいつどこに・・・」
俺が急いで屋上を出ると、下の方から叫び声が。

「本日から木村朝子と奥野忠は付き合うことになりましたーーーー!!!!」
「叫ぶな、アホォォォォ!!」



























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