高3になって毎日勉強、勉強だ。
運よく推薦をとれれば苦労はしないが、私はそんな頭の良い子ではない。
当然のごとく受験をするわけで、夏休みもず〜っと勉強。

夢のためにはやらなければいけないことだ。
と、頭ではわかっているものの勉強が好きになるわけではない。
それに私の溜め息の原因は勉強だけでなくテツさんとなっている。

テツさん。私のお気に入りの美容院にいる美容師さん。
去年の冬、告白して見事に恋人同士になったはいいけど
テツさんは仕事、私は勉強ということでなかなか予定が合わないため
付き合って半年以上経っているのにデートも片手ほどしかしていない。
そして美容院も暇がなくってなかなか行けない。
メールもしているけど、それだけじゃ物足りない。会いたいと強く願ってしまう。


しかし幸運なことに9月は祝日が多い。
予約をしたらバレてしまうと思って開店してすぐ行くことにした。
予備校も休みになったため、私はテツさんに内緒で美容院に行くことに決めた。
まるでデートに行くようにお洒落をして、鼻歌を歌ってしまうくらい上機嫌で行った。



なのに、



「・・・・え、休み・・ですか?」
「ごめんねー。テツ君久しぶりにお休みなんだ。」
美香さんの申しわけそうな顔に、その場で崩れ落ちたくなった。

連絡をとらなかった私が悪い。
・・・それはわかっているけどタイミング良すぎだと思う・・。

美香さんの励ましの言葉を聞いていると、後ろから人が来た。
「どうした?」
「あ、テツ君今日休みだからがっかりしちゃってさー。」
美香さんは苦笑して私を見る。

俯いた顔を上げると、久しぶりに見る綺麗な顔があった。
「ジンさん。」
つい声が出てしまうと、ジンさんはじっと私を見た。
「あぁ、この子例のテツの子か・・・」
・・・テツさん、私のことなんて話しているんですか?

今度問いただそうと思っていると、ジンさんが微笑した。
「俺が担当する?この子。」
「え、いいんですか?!」
ジンさんはこの美容院で一番人気の美容師だ。
いつも予約でいっぱいで、簡単にカットしてもらえない。

「いいよ。確か今日のこの時間は早い時間だから空いてたと思うし。カットだけならすぐ終わらせるから。」
「・・・じゃあ、お願いします。」
「了解。ちょっと座って待ってな。」
相変わらずかっこいいジンさんを観賞しつつ、私は溜め息を吐いた。
ジンさんにカットしてもらえるのは嬉しいけど、やっぱりテツさんがよかったなぁ。






「付き合ってるんだって?テツと。」
「え?」
シャンプー中に前触れもなくそう言われ、一瞬聞き違えかと思った。
「聞こえなかったならもっと大声で言うか?」
「聞こえました!!」
はっきりと言うと、頭の方で笑う気配がした。もしかしてジンさんって意地悪な人・・・?

「で?やっぱりそうなのか?」
「・・・まぁ・・・でもそれっぽいこと全然してませんけど。」
もう一ヶ月も会ってないと思うし、恋人らしいことをしたことがない。

「ふぅん。テツって見たまんまの奥手なのか。」
「いや、そうじゃなくて・・・会う機会がないんです。」
テツさんの名誉のために言っておくと、
ジンさんはまたふぅんと興味があるのかないのかわからない返事をした。

「そういうジンさんは、彼女くらいいるんでしょうね。」
「彼女?・・・・あぁ、別にいねぇよ。」
「嘘っぽいなぁ・・・」
「信じねぇなら別にいいけど。」

そっけない口調とは裏腹に、髪を触る手はとても優しい。
久しぶりに人に髪を洗われるのが気持ち良くて、喋っていないと意識を持っていかれそうだ。
そういえば寝不足だった。


シャンプーを終え、少し待たされている間、目の前には髪が濡れたおでこ丸出しの自分が映っていた。
少し目元に隈がある。ファンデーションで隠してくればよかった。
自然と欠伸が出る。テツさんがいないということで気が抜けてしまった。

ちょうどいい温度が、眠気を誘う。
ゆっくりと視界が狭まってくる。
最後に頭に浮かんだのは、大好きな柔らかい笑顔だった。












瞼を上げることで、自分が眠っていたことに気がついた。
見慣れない天井が見える。
「・・・・あれ?」
確か私はテツさんの美容院に行って―――
「あ、起きた?」
横から急に声がしたので驚いて起き上がると、かけられていた毛布が肩から落ちた。

椅子に座ってこちらを見ているのは、テツさんだった。
「・・・あれ、テツさんなんで・・?」
「ジンから連絡入ってね。カット終わっても熟睡しちゃってるから起こすの勿体無いって。
あ、ちなみにここはスタッフルーム。」

周りを見れば、ロッカーなども置いてあった。私が寝ていたのはソファだ。
徐々に自分の失態の恥ずかしさが込み上げてきた。
いくら寝不足だからって思いっきり寝ちゃうなんて・・・。

「すいません、せっかくの休日なのに・・・」
「いいよ、どうせ予定なかったから。それに俺に会うつもりで今日来てくれたんだろ?」
「っ!」
カッと自分の顔が熱くなるのがわかった。きっと美香さんとかに聞いたんだ・・!

「・・・ところで、未織ちゃん。」
「あ、はい!」
毛布をたたんで、立ち上がる。

「これからのご予定はあるんですか?」
いたずらっぽくテツさんが笑う。
その問いかけの意図がわかり、私は飛び上がるほど嬉しくなった。

「ないです!」
「じゃあ、久しぶりにデートでもしようか。」
「はい!」
テツさんが優しく笑うので、私も自然と笑っていた。

「・・・そういえば未織ちゃん、」
「はい?」
デートに浮かれていると、テツさんが手招きしたので近づいた。


「これから他の男の前であんな無防備になっちゃいけないからね?」
そうそっと耳元で囁かれて、心臓が飛び上がり、全身が熱くなった。

鼓動   






(悔しいくらいに貴方に恋してる)

























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