春の暖かな日差し。頬を撫でる冷たい風。溶け込めそうな、青空。

地球上で私しか存在しないような、おかしな疎外感。

そして、この時この瞬間



「はぁー。」
春の陽気を目一杯吸い込んで吐いた息は空へ吸い込まれていく。
目を閉じると太陽の温かさが感じる。
いろんな鎖から解放しているような良い気分。


屋上の給水塔の影。そこが私の居場所。
午後のひなたぼっことはまったくもって至福の時だ。



ふいに太陽の光は遮断され、真っ黒い髪の毛が私の頬をくすぐる。
「おい、パンツ見えるぞ。」
「へー。」
確かに風でスカートは揺れている。
ミニスカートではないが、大の字で寝ていたら見えなくもない。

「・・・・へーって・・あんたなぁ・・ちょっとは気にしろよ。」
自分で言ったくせにちょっと頬が紅潮しているのは日差しのせいではなさそうだ。
そんなシャイボーイは学ランを脱いで私の膝にかける。

「そんなに私の見苦しいものを見たくないの?」
私はきょとんとした顔をして言うと、予想外だったらしく困った顔になっていく。
「うるせぇっ!」
しまいにはそっぽを向かれてしまった。


まだまだ若いな、シャイボーイ。




シャイボーイこと森本宏という平凡な名前の彼は最近私のオモチャになっている。
本人には遊ばれていると自覚はあるらしい。
そして立ち向かってカウンター攻撃を試みようとするが、私はそんなことを許さない。
そのため最後はそっぽを向いて、不満そうに口を尖らせている。
そういう可愛いところが苛めたくなるということを気付かないのかねー。




「レオって結構フェミニストなのね。」
「だからレオって呼ぶんじゃねぇっ!」
「ほら、セキスイハ●スのCMの声真似しなよ。あ、トーマ●でもいいよ。」
「俺の名前は宏だっ!」
「じゃあ、ヒロシです・・・ってやる?」
「ものまねから離れろっ!!」

構うと面白い反応が出てくるから病み付きになってしまう。
私が目立たないように笑うと、振り返ってきて笑うなと怒鳴られた。全然怖くないよ。



「おい、またやってんのか。」
「あ、樋口先輩。」
給水塔からひょこっと啓(けい)が出てきた。
啓は私の悪友で、部活の後輩であるレオと知り合ったのも啓を通してだった。

「あら、啓。あんたもひなたぼっこ?」
「・・・お前はまたひなたぼっこか。飽きない奴だな。」
「啓も一緒にする?」
私がにっこり笑って手招きするが、呆れた顔をされた。

「お前制服に皺がつくぞ。それに黒のセーラー服なのに。」
「気にしない、気にしない。細かいこと言うなぁ。」
変な話だが啓はお母さんみたいだ。つまりは世話焼きなのだ。

「ところで先輩、どうしたんですか?」
「あぁ、そうだった。ヒバリ、今日の放課後空いてるか?」
「んー、ドラマの再放送は捨てがたい。」
冷たい目をされたが、無視した。

「せっかく奢ってやろうと思ったのに・・・」
「えぇっ?!マジっ!!」
私は思わず起き上がってしまった。
「あぁ、この前仕事手伝った礼をするって言ったろ。クレープ食わせてやるよ。」
「よしゃーっ!!クレープ!クレープ!さっすが啓、義理堅い男!」
私が啓を褒め称えると、呆れた顔をされた。

「放課後ちょっとだけ職員室に用事があるから、教室で待っとけ。」
「ラジャー!エスコート!啓、紳士!啓、最高!」
「はいはい、クレープくらいでそんなにはしゃぐな。」
頭をくしゃっと撫でられ、啓は給水塔へ姿を消した。


ドアの閉まる音がしてから、私はレオを振り返る。
「聞いた、レオ!クレープだって。」
「あー、よかったね。」
「あんた、啓には敬語のくせに私にはタメ口なのさ。私だって先輩なのに。」

レオはちょっと嘲笑うかのように私を見た。
「樋口先輩は副部長だし、尊敬しているから。あんたは敬語を使う必要がない。」
「うわー、差別。」
しかし私は機嫌が良かった。

ちょっと部活の仕事を手伝って、奢れよと言ったのを本当に奢ってくれるとは。
でもたぶん、私に貸しを作るのが嫌だからクレープで手をうったんだろうけど。
お互い遠慮なんてしない。
だからこそ私達は友情が続いている。



「一番高いクレープにトッピングいっぱいのせよー。」
私は再び固いコンクリートに寝転ぶ。
「あんたって本当に能天気だよな・・・」
呆れた声が空から降ってくる。

「レオは固くなりすぎー。テキトーテキトー、たまに適当。そうしないと疲れちゃうよ?」
驚いた、というか意外そうな顔が私を覗いてきた。
あぁ、面白い。だから飽きないんだ。




覗き込んでくるレオの肩までの髪をひっぱる。
「ねぇ、ちょっと啓に嫉妬したでしょ?」
私がにやりと笑うと、レオは顔を真っ赤にさせた。



思いっきり髪をひっぱって、強引に唇を重ねたら君はどうするかな。






























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