太陽が沈んでいく。まだ五時をちょっと過ぎた頃なのに。
最後の光を放ちながらも沈んでいく。
友達が夕日を見ると切なくなるとかポエマーなことを言ってたけど、
私はただ今日が終わることを突きつけられるだけだ。

そうだ。今日も終わりに近づいているのだ。
こんな最悪な日も、終わるのだ。


「・・・はぁ。」
ほとんど無意識に溜め息をついていた。



すると横から舌打ちが聞こえてきた。

「溜め息なんてつくんじゃねーよ。余計テンション下がるだろ。」
苛立ちを隠すことなく言ってくるので、私もイライラしてきた。
横目で睨みつけると、あっちも睨んできた。

「それはもーしわけありませんねー。聞きたくなかったらどっかに行けば?というかむしろ消えていいよ。」
「なんで俺が動かなきゃいけねぇんだよ。お前が消えろ。邪魔。騒音。」
「誰が消えるか。あんた何様のつもりよ?横暴。傲慢。」

数秒睨み合った後、お互いに顔を逸らした。
顔も見たくない。ただでさえ気分が沈んでいるのだ。














私は今日、失恋した。
それもかなり嫌な形で。



憧れの吉田先輩に、誕生日プレゼント持参で告白しに行った。
かなり心臓がドキドキ言って、口から飛び出すかと思った。
お決まりな感じで放課後の屋上に呼び出して、「好きです。」と言った。

吉田先輩はプレゼントと私を交互を見て、それからちょっと笑った。(嫌な笑い方だった)




『君、俺の好みじゃないんだよね。』




とんかちで、ガーンと頭をかち割られた気がした。
その瞬間自分が何をしたか覚えていない。

我に返った時には、吉田先輩が無様に尻もちをついて、
気持ち悪く左頬を押さえて私を呆然と見上げていた。
どうやら私は先輩を殴ったらしい。(だって右手がグーでじんじんしていた)

お互い呆然としてしまって、とにかく私は屋上から逃げ出した。

階段を駆け下りる最中、怒りと悲しみがぐちゃぐちゃになって頭がぐるぐるした。





そして公園で、ぼんやりしていたら総太に会った。

総太というのは今私の隣に座る、偉そうな男のことだ。
幼馴染で、昔から喧嘩ばっかりしていた。今もそうだ。
だってむかつくんだから仕方ない。(足を組んでふんぞり返ってところから気に食わない)

そんな総太も失恋したらしい。
総太はそこそこカッコイイ。
(きっとみんなすごい美形を見たことがないから、総太がかっこよく見えるんだ、きっとそうだ)
だから気に入らないことに結構モテる。小学校から今までずっと。(これもむかつく原因の一つだ)

でも珍しく彼女から振られたらしい。
まぁもともと本気の付き合いなんかしてないから、傷つかないと思う。実際傷ついてはいないと思う。
だけど今日の総太は何故かぼんやりしている。
落ち込んでいるっていう雰囲気でもないんだけど。どちらかといえばイライラしている。



で、不本意ながら私は幼馴染とベンチに座って夕日を見ている。
切ないとかそういう気持ちにはならなかった。


なんで私はこんなさびれた公園で、むかつく奴とベンチに座ってるんだろう。




「はぁ。」
溜め息をついた。
どうしようもなく虚しいような感じ。気分が沈む。

「だから溜め息つくなって言っただろ。」
また苛立った声が聞こえる。
きっと眉間に皺を寄せて、夕日を睨んでいるに違いない。顔を見なくたってわかる。

「溜め息くらいついたっていいじゃない。・・・それくらい気分が沈んでるのよ。」
だんだんと辺りが暗くなってくる。もう太陽は見えなくなってしまった。
「・・・あー、そういや振られたって言ってたな。」
さして興味なさそうに返された。(興味をもたれても気持ち悪い)

「・・・・・吉田先輩って、もっとかっこいい人だと思ってた。」
あんな最悪な振り方する人だと思わなかった。
実際先輩がどんな笑い方をするのか、どんな口調をするのか、どんな人間なのか知らなかった。
だって私はただ先輩に憧れていただけだから。

「お前って昔っからそうだよな。もっと現実を見ろ。」
そういえば小学校のときも転校生にときめいたけど、実際パッとしない子だったな。
全然成長してないってこと?

「さっき見たわよ。ホント最悪だった。あんな振られ方されたの初めてだし。」
「貴重な体験をしたな。」
適当な返事にむっとした。・・・別にこいつに慰めてほしいとは思わないけど。

「あんただって振られたんでしょ?どうせ他に好きな人ができたのとか言われたんじゃないの?」
笑ってやると、鼻で笑われた。(むかつく)
「馬鹿か。俺以外に好きな男が出来るわけねーだろ。・・・・そんな理由じゃねぇよ。」
「・・・・誰かー。このナルシストを殺してくださーい。」
頭を叩かれた。(結構痛いよ!)














吉田先輩のことは、本当に好きだった。
遠くから見つめるだけでドキドキして、先輩が笑ってるのを見ると顔が真っ赤になった。
でも今は素敵な笑顔を思い出せない。
あの、返事のときの嫌な笑顔ばっかり出てくる。


『君、俺の好みじゃないんだよね。』


正直、悲しいを通り越してものすごくむかついた。
私が好きだった先輩はガラスを割ったみたいに粉々になった。
そして、今までの私の好きな気持ちを全否定された気がした。


本当に、好きだったんだ。

廊下ですれ違った日なんて世界が明るく見えた。
目が合ったと思ったら、倒れそうになった。
すっごい楽しくて、恋することが嬉しくて、学校に行くのが楽しみだった。

実際ものすごく嫌な人だったとしても、昨日までの私は間違いなく吉田先輩に恋してた。

現実を見てないと言われようと、好きだったんだ。





「・・・・・・お前ってホント泣き虫だな。」
横を向けば、総太が呆れたように笑っていた。
そう言われて、自分が泣いていることに気がついた。

「あんただって昔迷子になって泣き叫んだくせに。」
「・・・・お前はそういうことだけは覚えてるんだな。」
セーターで涙を拭く。でも、どんどん零れてくる。
こんな奴の前で泣きたくないのに。

「泣けば?泣き虫カオちゃん。」
そう言って馬鹿にしたように笑う男が、心底憎いと思った。(昔のあだ名持ち出すなよ!)
女の子が泣いているというのに、なんでここまで冷たくできるのだろう。(絶対Sだこいつ)



中学のとき、初めて付き合った男の子の前で泣いたことがあった。
その時、男の子はものすごく面倒そうな顔をしていた。
「あぁ、泣いてるよウゼぇ」みたいな。
その瞬間から、私のその子への気持ちが急速に冷えていくのがわかった。


けど、今横にいる総太はそんなことはない。
馬鹿にしてるけど、別に困ってもいないし面倒でもなさそうだし、むしろ気にしていない。
たぶん私が泣こうが叫ぼうが、ただ隣にいると思う。(あんまりうるさいと叩かれるかもしれないけど)

そんな漠然とした確信を感じている私には、泣きたくなくても勝手に涙が零れてきた。
何故か、安心して泣けるのだ。あんなに冷たいのに。馬鹿にするのに。
きっと馬鹿にしながらも泣き止むまで一緒にいてくれるから。














辺りが真っ暗になって、街灯の光がぼんやりと浮かんできた頃、私はやっとすっきりした。
泣くとストレス解消になるっていうのは本当だと思う。

落ち着いて、横を向くと目が合った瞬間、醜い物を見る目で見られた。
「・・・・ぶっさいくな顔だな。」
「・・・あんたよりマシよ。」
不幸なことにちょうど私達の真上に街灯があるので、辺りは暗いのに私の顔ははっきり見えるのだ。
私は顔を背けた。


「・・・・・すっきりした。もう帰ろう。」
独り言でそう言った。決して隣にいる奴にはお礼は言わない。(あっちもそれでいいと思っているはずだ)
「・・・よく泣いたな。最近で一番じゃねぇか?」
「そんなにしょっちゅう泣いてないけど・・・まぁ、そうかもね。」
久しぶりにものすごく悲しかった。
でも、もう涙と一緒に暗い気持ちも流せたからそれでいいや。





「なあ、俺にしとけば?」





唐突にそう言われた瞬間、私は総太を見た。
総太は真剣な目で、私を真っ直ぐ見ていた。
澄み切った綺麗な漆黒が私を飲み込む。
こんな総太、見たことない。

「・・・・そ、うた・・・?」










「・・・・・なんちゃって。本気にしたのか?」
「・・・え?」
驚いたときにはもう総太はいつもの馬鹿にした笑みを私に向けていた。

「馬鹿かお前は。」
見下すようにそう言い捨てて総太は鞄を持って立ち上がり、歩き出す。

私はたっぷり1秒間、呆然とした。



その後、腸が煮えくり返るくらいにむかついて、鞄を掴んで後頭部目掛けて投げた。


「死ね!!」


ドサッと、総太に命中して奴が倒れた音がさびれた公園に響いた。



19時31分の怒り
少しでもドキッとした私が馬鹿だった!












Title:リライトさま























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