俺の気分は今、最高潮に悪かった。
沈んでいく夕日もむかつけば、今隣に座っている女もむかつく。
とにかく何かに当たりたい気分なのだ。
イライラする。モヤモヤする。


「・・・はぁ。」
沈んだ溜め息に、意味もなくむかついた。ので舌打ちした。
「溜め息なんてつくんじゃねーよ。余計テンション下がるだろ。」
そう言うと、横から強い視線を感じた。
見てみると、女とは思えない迫力で奴は睨んでいた。俺も睨み返す。

「それはもーしわけありませんねー。聞きたくなかったらどっかに行けば?というかむしろ消えていいよ。」
「なんで俺が動かなきゃいけねぇんだよ。お前が消えろ。邪魔。騒音。」
「誰が消えるか。あんた何様のつもりよ?横暴。傲慢。」

数秒睨み合った後、お互いに顔を逸らした。
イライラがどんどん溜まっていく。














俺は今日3ヶ月付き合っていた彼女に振られた。
それも予想していない理由で。



名前はハルナと言った。一見大人しいタイプに見えるが、自分の意見ははっきりと言う奴だった。
俺は彼女を作るのは全部遊びだ。真剣に恋なんかしない。
でも、ハルナは今まで付き合った彼女の中でも1、2を争うほど一緒にいて楽しかった。
気も合ったし、話していて面白かった。
ハルナは頭が良くて、そこそこ可愛くて、いろんなことを知っていた。それが俺をとても刺激してくれた。


けど、振られた。




「別れよ、私達。」
「・・・・・・なんで。」
俺はハルナが嫌いじゃなかった。
そして振られることも別れることも別に痛くはなかった。


ただ、理由がわからなかった。

俺たちは充分楽しんでいなかったか?



「総太には・・・本当に大事にしている子がいるから。」



その時、俺はがつんと殴られた気がした。


「私は、彼女になったからには自分を一番に見て欲しいと思ってるの。・・・だから、総太とは無理。」

そう言ったハルナの顔は、不謹慎だけど綺麗だと思った。





それからぼんやりと公園に入ったら、香織がいた。

香織とは今俺の隣で辛気臭い顔をしている女のことだ。
幼馴染で、腐れ縁らしく高校まで同じ学校になってしまった。
昔っから馬鹿で、どうしようもない奴だ。

口を開かなければそこそこ可愛い顔をしているこいつは、今日振られたらしい。
ちょっと前からナントカ先輩に夢中だったから、きっとそいつに告白して見事に振られたんだろう。
どうせまた馬鹿な理由で好きになって、恐ろしくあっさり振られて凹んでいるに違いない。



「はぁ。」
「だから溜め息つくなって言っただろ。」
なんでこいつは学習能力というものを知らないのだろうか。(だからいつも同じ失敗する)(馬鹿か)

「溜め息くらいついたっていいじゃない。・・・それくらい気分が沈んでるのよ。」
「・・・あー、そういや振られたって言ってたな。」
なんでこいつは少女漫画的なんだろう。気分に浸りすぎている。
振られたくらいでそんなセンチメンタルになるなよ。

「・・・・・吉田先輩って、もっとかっこいい人だと思ってた。」
ちらっと香織を見ると、沈んだ顔をしていた。どこか遠くを見ている。
きっとその吉田先輩のことを考えているんだろう。

「お前って昔っからそうだよな。もっと現実を見ろ。」
そういえばこいつが小学校の頃、転校生に恋することに憧れていたのを思い出した。(絶対馬鹿だ)
「さっき見たわよ。ホント最悪だった。あんな振られ方されたの初めてだし。」
「貴重な体験をしたな。」
棒読みで言ったら、不満そうな顔をしていた。どうやら慰めて欲しいらしい。(してやらないけど)

「あんただって振られたんでしょ?どうせ他に好きな人ができたのとか言われたんじゃないの?」
優位に立ったように笑う香織があまりにもアホっぽいので鼻で笑ってやった。
「馬鹿か。俺以外に好きな男が出来るわけねーだろ。・・・・そんな理由じゃねぇよ。」
そう言ったとき、ハルナの顔が過ぎった。

「・・・・誰かー。このナルシストを殺してくださーい。」
むかついたので頭を叩いておいた。














「・・・いつから気がついてたんだ?」
俺がそう言うと、ハルナが小さく笑った。
「・・・付き合って1ヶ月くらいかな。」
「早いな。」
「これでも人を見る目はあるからね。総太の歴代の彼女みたいに馬鹿じゃないのよ?」
得意げに笑う彼女に、俺はつられて小さく笑った。


初めて、別れる彼女に対して申しわけないと思った。

別に女なんて傷つけてもなんとも思ってなかったけど、

ハルナを傷つけてしまったことを本当に悪かったと思った。


「・・・・ごめんな。」
謝ったことなんてあまりないから、うまく言えなかった。
するとハルナが珍しいものを見るような表情をしていた。

「・・・・なんだよ。」
「いや、総太でも謝るんだ〜って。」
真剣に言われたので、俺は呆れるしかなかった。

「お前な、俺をなんだと思ってるんだよ。」
「俺様。」
「即答かよ!!」

俺たちは笑った。初めて、少し悲しいと思った。



ひとしきり笑った後、俺は立ち上がった。

「・・・・んじゃ彼氏として最後に言っておくけど、」
「・・・・うん。」
ハルナは俺と同じ真剣な顔をしていた。


「ハルナは歴代の彼女の中で一番だよ。少し、特別だったよ。」

ハルナの綺麗な茶色の瞳が少し揺れた。


ハルナは俺にいろんなものをくれた。
確かに俺の中の一番大切な女の子じゃなかったけど、大切な存在だった。
俺は彼女と別れるとき、悲しいとも寂しいとも思わなかった。
けど、そう思ったのはハルナが初めてだった。


「・・・・なんか、ずるくて悪い。」
「・・・・・・・うん、ずるいよ総太は。」
彼女はか細い声を出して、目を伏せた。

「ごめん。」
「今日の総太は謝ってばっかりで、変だよ。」
「あぁ、そうかもな。」
ハルナは泣かなかった。ただ、弱々しく微笑んだ。








ぼんやりとした思考から現実に戻ったとき、日は沈んでもう見えなくなっていた。
空に太陽の最後の光が弱く見えるだけだ。
ふと隣を見たら、呆れて笑ってしまった。

「・・・・・・お前ってホント泣き虫だな。」
俺の声に香織がこちらを向いた。
ぼろぼろと涙が零れている。(ブサイクだ)

「あんただって昔迷子になって泣き叫んだくせに。」
強がって言う台詞にしてはちょっとムッとした。
「・・・・お前はそういうことだけは覚えてるんだな。」
香織は乱暴にセーターで涙を拭いていた。涙は止まる気配はない。
けれど俺の前では泣きたくないらしく、必死で涙を止めようとしている。(無駄な努力だ)


「泣けば?泣き虫カオちゃん。」
わざと馬鹿にしたように言えば、涙目できつく睨まれた。(別に怖くもない)
それから、俯いて静かに泣き始めた。

俺は昔からこいつが泣いているのに付き合っている気がした。
けれど、別に嫌な気分はしない。
慰めもせず、抱きしめることもなく、ただ隣に座っていることで受け止めてやろうとしていた。








「告白、しないの?」
ハルナは少し茶化すように言った。俺は顔をしかめた。
「賢いハルナちゃんならわかるだろ。」
あいつは俺のことを男として見ていない。ただのむかつく幼馴染としか思ってないのだ。
そんな奴に告白するほど俺はチャレンジャーではない。

「・・・確かに、鈍感そうだよね。それに総太って表面上はものすごく優しくないし。」
「・・・・・お前くらい俺のことをわかっていてくれてたら苦労しねぇんだけどな。」
そう言いながらも、告白しようとは思っていなかった。

することなど考えたこともない。
あいつは、俺のことを見ていないから。


そう思うとイライラしてきた。
考えてみれば、あいつは根源であり、あいつが一番悪いじゃねぇか。


「・・・・ねぇ、総太。」

別れ際、ハルナが少し困った顔をして言った。

「私達、恋人にはなれなかったけど・・・友達にはなれるよね。」



「あぁ。最高の親友になれるぜ、きっと。」
俺が微笑むと、ハルナも嬉しそうに微笑んだ。


きっと、俺にとってハルナは大切な存在のままでいる。








辺りが真っ暗になり街灯が頼りになってきた頃、香織の嗚咽が止まった。
隣を見ると、ふと俯いた顔がこちらを向いた。

「・・・・ぶっさいくな顔だな。」
正直な感想だった。
目の周りは赤く腫れていて、顔もかなりひどい。
「・・・あんたよりマシよ。」
苦し紛れに言われても、怒りよりもむしろ哀れに思えてきた。


「・・・・・すっきりした。もう帰ろう。」
独り言のように香織はそう言った。表情から、かなりすっきりしたらしい。
泣くのに付き合せた俺にお礼はないのか。(・・・されても気持ち悪いかもしれない)

「・・・よく泣いたな。最近で一番じゃねぇか?」
そういえば最近はあんなに泣くのに付き合ったこともなかったことを思い出した。
「そんなにしょっちゅう泣いてないけど・・・まぁ、そうかもね。」
香織は苦笑いしていた。

最悪な振り方した男のせいで泣くなんて、本当にこいつは馬鹿だ。





「なあ、俺にしとけば?」





勝手に口を開いていた。香織が目を丸くして驚いていた。
そりゃそうだろう、意識なんてしていないのだから。
きっとただ驚いて呆然としているのだ。
それが無性にむかついた。・・・・俺ってなんでこんなに救われないんだ。

「・・・・そ、うた・・・?」


間抜けたその口を塞いでやりたかった。
イライラする。モヤモヤする。






「・・・・・なんちゃって。本気にしたのか?」
「・・・え?」





けれど、この気持ちを気付かれてはいけない。告白しても相手の反応に虚しく思うだけだ。

ずいぶん前に諦めたのだ。

俺はずっと、このままの関係でいるあり続けることを。





「馬鹿かお前は。」
心の底からそう思った。言い捨てて、奴を残してさっさと帰ろうと思った。
馬鹿馬鹿しい。なんで、こいつはここまで馬鹿なんだ。



「死ね!!」
米粒の情も入っていない、100%殺気の言葉が後ろから聞こえてきた。


その直後、俺は後頭部に香織の鞄らしきものがぶつかって倒れた。(てめぇそれでも女か!)



19時31分の愁い
・・・なんで俺はこんな奴のこと好きなんだよ。












Title:リライトさま
























SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送