『おれがいっしょうおまえをまもってやるからいいんだ。』

そう言ったのはどこの誰だったか。









私と貴方と私と貴方の関係








市立杉の原高等学校。そう彫られた門の前に私はいる。
ちょうど下校時刻で部活のない人達がぞろぞろと門を通って帰っていく。そして私をちらちらと見る。
私は気にせず校舎を見上げた。少し古びているけどまぁそれが普通だろう。制服は学ランとセーラー服。セーラーのデザインがちょっとダサい気がする。
昇降口から出てくる生徒達を私はちらちらと見た。

彼は、いない。

もしかしたらサボってもう帰ってしまった可能性だってあるけど、今日は保護者会か何かで私の学校は五限で授業は終わったので一度くらい彼の通っている学校も見たくなったのだ。
会えなくても見ただけでもいいとしよう。できれば会いたいけど。

「ねぇ、君友達でも待ってるの?」
校舎を背にして私の前に人が立った。
下心丸出しの笑顔で茶髪と金髪の二人の男子生徒が私に話しかけてきた。
二人共制服を着崩していていかにもかっこよさそうにしている。本当はかっこよくもなんともないのを気づいてないらしい。ある意味おめでたい。無論、私の嫌いなタイプだ。

「・・・・・・そうよ。」
一応答えておいた。
「友達なんかより俺たちとこれから遊ぼうぜ。」
「絶対楽しいこと保障するからさ!」
茶髪、金髪の順番に言う。即断ろうと思ったが聞きたいことを思い出した。
「貴方たち、二年?」
「あぁ!そうだよ!君は?」
自分たちに興味を示してOKしてくれると勘違いしているらしい。
けれど私は彼らのことなどそこらにいる微生物ほど興味がなかった。

「じゃあ、二年の仁藤嵐ってどんな人か知ってる?」
その言葉に二人の顔から少し血の気がひいた。
「き、君仁藤に用があるのか?!」
「君みたいなかわいい子だと危ないって!!」
急に慌てて言う。私はそれを無視して聞いた。
「知ってるのね?どんな人?教えて。」
二人は躊躇しながら小声で言った。

「うちの問題児。不良。喧嘩が強くてつい最近も三年の怖い先輩に勝ったらしいし・・・よくサボってるけど先生たちも怖くて口出しできねーんだぜ。」
「そうそう。他校でも有名なくらい。とにかく怖いし、近寄り難くて誰かと喋ることなんてないん――――!!!」
金髪の生徒は最後まで言葉を言えなかった。茶髪の人は顔を蒼白にし棒立ちになり、下校する生徒は立ちすくんでいる。

「てめぇら、なにしてんだ・・・・」
金髪の生徒の首を掴んだ男子生徒が低い声で問いかけた。
金髪の生徒よりか少し背が高く、茶髪と金髪の間のような髪、そして眉間に皺をよせた、立ちすくんでしまいそうな怖い顔。迫力は十二分にあった。

「嵐、暴力はよくないよ。それにこの人たち私にナンパしたけど嵐のこと親切に教えてくれたし。」
迫力十二分な彼は仁藤嵐。私が会いたかった人。
嵐は私を一睨みすると金髪の生徒の首から手を放した。金髪はむせて呆然としながら嵐を見ている。

「お前、なんでここにいる・・・?」
私を睨みつけながら嵐は言う。対照的に私は笑顔で言った。
「授業が早く終わったから嵐の学校ってどんな感じかなーと。それに今日夕食一緒に食べる約束したからどうせなら一緒に帰りたいなぁと思ったわけですよ。」
「お前な・・・・・」
呆れと怒りの混じったような声音だった。

「別にいいじゃない。よかった、見つかって。帰ろ。」
そう言うと嵐は舌打ちして歩き出した。
私はナンパした二人を見た。彼らは私に見られてびくっと体を強張らせた。
「教えてくれてありがとう。参考になった。」
私は微笑み先を歩く嵐を追いかけた。

「何なんだあの子・・・・かわいいのにあの仁藤の睨みを怖がらない・・・・」
「仁藤もあの子の言葉だと素直に従う・・・・・もしかして・・・・」

「「仁藤の女?!!」」





「凛花。」
いつものように不機嫌そうに眉間に皺をよせ嵐は言った。その皺も今日は特に多い。
「何?」
私は嵐の横で歩きながら答える。
「これから勝手に来るんじゃねぇ。来ることくらい言え。」
「今日は突然行きたくなったのよ。たぶん、今度はないよ。」
その言葉に嵐は安堵か呆れているのか溜め息をついた。

「そんなことより材料もう嵐の家にあるよね?このまま寄って作ろうかな。」
「あぁ。」
嵐と私は小学校からの付き合いで、ちょうど家が隣同士なので親同士が仲良くなった。
けど嵐のお母さんは嵐を産んで亡くなったそうで父子家庭。私の両親は私が高校生になった時海外へ仕事に行ってしまった為今は一人暮らし。
だから夕食は週四くらい一緒に食べるのだ。

嵐の家に着き、家に入る。
「ただいまー。」
「・・・・ただいま。」
「おっ、その声は凛花か!」
奥の居間から声とテレビの音がする。

嵐は二階の自分の部屋へ行き、私は居間へ行くと寝転んでいるおじさんがいた。
「おかえり。一緒に帰ってきたのか?」
おじさん―――嵐のお父さんは柔道とか合気道とかいろんな武術を習っている人でそのせいで嵐も喧嘩が強くなった。柔道の先生をやっている。
そのため筋肉を衰えていなく、瞳もぎらぎらしていて「かっこいい親父」と言っていい。いつも着物を着ていて、それがよく似合っている。私を「凛花」と呼び捨てで昔から可愛がってもらっている。
顔もなかなかハンサムで昔はモテたと思う。お父さんに似た嵐もいつも眉間に皺よせて怖い顔をしているけどよくよく見るとかっこいいのだ。

「うん。私が授業早く終わったから嵐の高校に行って待ってたの。」
そういうとおじさんは一瞬意外そうな顔をして、それからニヤニヤと笑った。
「嵐の奴怒っただろ。」
「うん。でも別にいいと思わない?」
「凛花は可愛いからあいつ心配なんだよ。他の男に見せるのが嫌なんだろ。」
その言葉に私は少し顔の温度が上がった。おじさんはまたニヤニヤした。

「そ、そんなことないでしょ。」
私は照れ隠しにそう否定する。が、おじさんは即答する。
「いや、あれはどう見てもそうだろ。凛花は無防備だから心配なんだよ。気をつけろよ?このごろはタチの悪い奴が多いから。」
「う・・・ん。私って無防備かな?」
そんなつもりはない。おじさんは短く溜め息をつく。

「(自覚ないのか?)かなり、な。あいつ今日一日きっと不機嫌だぞ、きっと。嵐が凛花を特別扱いしてることくらいそこらのガキでも一目でわかるしよ。明日になったらきっと嵐の女だって噂になるんじゃねーか?」
おじさんは妙に鋭い。私はなにも反論できない。
「じゃあ、夕飯作るね。今日はハヤシライスだから。」
私は立ち上がり台所に向かった。






夕食が終わり、嵐の部屋に行って借りた本を返した。
「これ、面白かったよ。またなんか面白い本見つけたら教えてね。」
「あぁ。」
嵐は私に背中を向けて雑誌を読んでいる。私は嵐のベットに寝そべって嵐の背中を見た。

不良かぁ・・・・。
ナンパした男子生徒の言葉を思い出した。きっとみんな嵐を怖がっているんだろう。

嵐は昔から不器用で話すのが下手だった。おじさんのおかげで喧嘩は強くって怖がられた。
いつしか眉間に皺をよせてカッコイイ顔は怖くなった。きっと嵐は傷つき、悩んだ時もあったのだろう。
開き直りにも似た、自由奔放になることにしたのか小三くらいから一人になることが多くなった。けど少数だが友達になった子もいた。

細かいことは気にしないでアバウトな性格なため、嵐は見事に中学で不良と言われた。
本人はそういうつもりはないはずだが別になにも言わなかった。
喋ることが苦手で、すぐ暴力になった時もあった。
そして私は高校で別れてしまい、今嵐がどうなのか全くわからない。嵐は学校のことはなにもしゃべらないから。

小学校から、私はずっと嵐を見てきた。
私と嵐は付き合ってるわけではない。お互い好きなんて言い合ったこともないし、キスなんかもしていない。
彼女や恋人よりもずっとずっとお互いを知っていて、信じ合っている。

だから、今更好きとか告白してもどうかと思う。
嵐が私に好意を寄せているのも知っているし、嵐も私が嵐に好意を寄せていることを知っているだろう。
それが尚更困る。
別に彼女とかになりたいわけじゃないけど・・・・いや、嘘。少しだけ、彼女になりたいなぁと思っているけど・・・・・今更、恋人になれるだろうか?嵐はちゃんと私を恋愛対象として見ているのだろうか?

そんなことを思っているうちに私は目を閉じ、夢の世界へ行ってしまった。






静かな寝息が聞こえてきて、嵐は後ろを振り向くと予想通り凛花は寝ていた。
「・・・・またかよ・・・。」
思わずそう呟いて、嵐は立ち上がり部屋を出て一階へ行った。

居間に行くと嵐の父、国義が新聞を読んでいた。
「どうした?」
「・・・・布団。凛花がまた寝やがった」
嵐は押入れに入れいる布団を出す。
国義はくつくつと笑う。嵐はむっとして国義を見る。

「何だよ。」
「いや、お前の理性はすごいなぁと思って。普通あんな可愛い子襲いたくなるだろ?」
嵐は強く国義を睨むがまったく効果はなく、笑い声は止まっていない。
「今日お前の高校に行ったんだって?凛花はまだ自分が無防備で可愛いことを自覚してないんだなぁ。」
「・・・・俺の気持ちになってもらいてぇよ。」
「だろうなー。それより、お前らは付き合ってないのか?」
親のストレートな問いに嵐は少し照れて視線を逸らす。

「今更、彼氏と彼女の関係か?いろんな意味で恋人以上にお互いを知っている。今更、好きと言うのか?」
嵐は自分への問いを国義に向けた。国義はふっと小さく笑い、言った。
「いいじゃねぇか。お前の我慢も限界だろう?どう見ても両思いだから怖がる必要もない。」
少し沈黙してからぽつりと呟いた。

「凛花が俺に恋愛感情を抱いているとか限らねぇ・・・・ただの信頼していて俺を男として見てないかもしれない・・・・。」
嵐は居間から出て、布団を持って二階へと言った。
それを見て国義は嘆息する。
「は〜、なんだよ。まだまだお互いのことわかってねぇじゃねぇか。凛花だった嵐と同じ考えだと思うけどなぁ・・・。」
国義の独り言は誰の耳にも入らなかった。




(つーか無防備すぎなんだよ、お前!!)
嵐は心の中で怒りながら呑気にすやすや寝ている凛花を見る。
布団を置き、座ってベットに肘をつき凛花の寝顔を眺めた。こういう時間が嵐は好きだった。

すると、凛花がくしゅん、と小さくくしゃみをする。
嵐はベットに少し身を乗り出し、凛花に布団をかけようとしたその時、
嵐の腕を凛花が掴み、自分のほうへ引き寄せる。予想外の出来事に嵐はバランスを崩し凛花の隣に寝てしまった。
(やばっ・・・・)
そう思って逃れようとするが今度は抱きつかれ、ベットから出ることが不可能だということがわかった。

嵐は仕方なく布団を足で引き寄せ自分と凛花に布団をかけた。
一方凛花は静かに寝息をたてている。
(ったく・・・・俺の理性を試そうとしているのかこいつは・・・!!)
嵐は今晩熟睡できないことを確信した。










目を薄く開けると藍色だった。
わけがわからずにいるとそれが上下していることがわかった。まるで呼吸をするみたいに。
・・・・・・・呼吸?

私が上を向くとそこには嵐の寝顔があった。藍色のシャツを着ていたのだ。
寝ぼけて嵐に抱きついてそのまま寝てしまったらしい。嵐のベットで寝てしまうのはよくあることだが嵐を巻き込んで寝たのは久しぶりだ。
そして、急に恥ずかしさが込み上げる。よく高校二年生になって男と一緒にぐっすり寝れたものだ。
ある意味私はすごい。

今が何時だかわからない。けれど日は昇っていてカーテンの向こうは明るいのでもう起きていいだろうと思って体を動かそうとしたが動けない。
どうやら嵐が私の腰に腕を回して、がっちり密着してしまったらしい。
嵐はぐっすり眠っている。嵐は一度寝ると自ら目覚めるまで起きない。

このままでいろと言うの・・・・?!!

駄目でもいい。とにかく起こす努力をしよう。
「嵐!起きて!嵐!」
できるかぎり嵐の顔に近づき、耳元で呼びかける。
自分の心臓の音がやけにうるさい。

「嵐!」
「・・・り・・・んか・・・」
反応有!!
私が嵐と言おうと思った時、


口を塞がれた。


驚きのあまり、なにが起こっているかわからなかった。
が、数秒経ってから私は我に返り力一杯嵐の胸を押した。
嵐はベットからドサッと音を立てて落ちた。
私はそんなに強く突き飛ばしたのかと頭の片隅で思いながら、立ち上がり鞄を掴んで部屋を出た。

「あ、凛花おはよ・・・う?」
階段を降りたらおじさんがいて、私の真っ赤な顔を見て不審そうな顔をした。
「あ・・・え・・・えっと朝食は自分の家で食べるから!また来るね!!」
最後の方に早口になり、急いで玄関に向かって嵐の家を出た。


「・・・・まさかついに襲ったのか・・・?」
国義は困った顔で階段を見上げた。
しかしそのころの嵐はまだ寝ていた。



急いで服を脱いで、シャワーを浴びて自分を落ち着かされる。 唇にはまだ感触が残っている。
頭の中が混乱してうまく考えがまとまらない。
とにかく新しいブラウスを着て、少しよれたスカートを穿き、リボンをつけてブレザーを着て学校へ行く用意をした。
時間を見ると後十分で家を出ないと遅刻する。
朝食を食べずに家を出た。





「凛花!噂になってるわよ、あんたが仁藤君の彼女だって。」
昼休み、愛華の言葉に私は思考の海から出た。仁藤と聞いたからだ。
昼休みまで自分が何をやっていたのかよく覚えていない。ただ、ぼんやりと嵐のことを考えていた。

「私はあんたと仁藤君がどういう関係かわかるけど・・・・他の人はやっぱり彼女と勘違いしちゃってるよ?」
愛華は中学一緒で、私と嵐が深く信じあっていて、別に恋愛関係ではないことを知っている。
「うん・・・・。」
そんな話より私は朝のことが頭から離れない。

「凛花どうしたの?なんか今日朝から変だよ?」
愛華は心配そうに私の顔を覗く。
「うん・・・・あのね・・・・」
私は思い切って愛華に朝のことを話した。
すると愛華は溜め息をついた。
「あんたねぇ・・・・そりゃ凛花が無防備すぎるよ。今まで襲われなかっただけいいんだよ。それに、凛花は仁藤君のこと好きなんでしょ?恋愛感情として。」
「そりゃ・・・そうだけどさ・・・いきなりだったし、なんか混乱しちゃって・・・どうすればいいのかよくわかんなくて・・・。」
今までそんなこと一切なくて、どう対応すればいいかわからない。
大体、嵐が私のことを恋愛対象として見ているかも不確かだったのだから。

「(それにしても仁藤君の理性ってすごいわね・・・・)じゃあさ、ちょうどいい機会だから告白しちゃいなさいよ。きっと両思いよ。」
「・・・・・・・。」
告白、か・・・・。ずっと踏ん切りがつかなかったけど、確かにこの機会にやってみようかな・・・・。なんだか乙女な自分が恥ずかしい。
「うん、してみる。ありがとう、愛華。」
「よし!そうしてきな!」
愛華は笑顔でそう言ってくれた。




放課後、私はまた嵐の高校に行く事にした。すぐに、この気持ちを伝えたくなったから。
そういえば昨日「来る時は言え」と言っていた事を思い出し携帯を取り出し電話する。
数回のコール音の後に低い声が聞こえた。
『どうした?』
「あ、嵐?あのさ、今日ちょっと話したいことがあるの。だから私今から嵐の高校に行くね。」
『あぁん?!今からじゃなきゃ駄目なのか?』
「ん〜・・・・うん、できればそうしたい。」
別に嵐の家に行ってもいいけどなんだか家の中じゃ告白し辛い。やはり帰り道にぱぱっと言ってしまいたい。

『・・・・・わかった。お前は来なくて良いから、今から俺が迎えにいく。待ってろ。』
「え?!」
ブチッ
一方的に電話は切れた。仕方なく私は窓の外を見た。ちょうど私の教室からは校門が見える。
昨日は私の足で三十分かかった。嵐なら二十分で来るだろう。
小走りで来てくれるかなと勝手に思い、笑みを零してしまう。

「あれ、まだいたの?告白は?」
教室に入ってきた体操着姿の愛華。愛華は陸上部なのだ。
「電話したらこっちに迎えに来てくれるって言われて・・・」
「うわー、愛されてる〜。」
愛華はニヤニヤしながら言い、自分の机の中からプリントを取り出していた。
「うるさいわね!・・・・忘れ物でもしたの?」
「うん、宿題のプリントをうっかりね〜。走っててちょうど道路見えるから二人で通った時ラブラブねーとか言ってあげるわよ。」
「余計なお世話よ!!」
とても愉快そうな愛華は顔赤いわよと言って教室を出た。
くやしい、反論できない。けど、彼女が応援してくれていることも知っている。だから、尚更反論できない。

オレンジ色に変わりかけている空をぼんやりと見て時間を潰した。
校門をちらちらと見ても、誰も来ない。もうすぐ十五分が経つ。 私は暇なので校門で嵐を待つことにした。
教室にいても退屈で、なにかやろうとしても校門が気になるから。

昇降口を出ると運動部のかけ声などが聞こえた。今ごろ愛華は走っているのだろう。
校門に行ったその時、急に左腕を掴まれた。
「?!!」
驚いて声も出なかった。私を掴む手は大きく、すごい力で振り払う事ができない。
「おい、こいつか?」
その一声でぞろぞろと数人の男が私の周りを囲んだ。
すると、男の一人に昨日ナンパした片方の茶髪の男子生徒がいた。彼は半泣きで、狂うように首を縦に振った。
よくよく見ると全員が杉の原高校の制服を着ていた。

「放してください。」
ボスと思われるデブで脂ぎっている男子生徒をキッと睨みつけた。ついでに私の腕を掴んでいるいかにも不良っぽい生徒も。
「可愛い顔してるじゃねーか。仁藤にはもったいねぇなぁ。」
ナンパした茶髪の男子生徒は逃げていった。きっとこいつらに脅されでもしたんだろう。私の顔を覚えているのは昨日ナンパしたあの二人だ。
仁藤・・・・嵐と喧嘩して負けでもした人達?
ニヤニヤと気持ち悪い笑みを浮かべている四人の男子生徒を私は恐れず、睨んだ。

「放してください。」
もう一度言うと、ボスのデブはニヤァっと笑った。あまりにも気持ち悪くて私は背筋がぞっとした。
「そういうわけにはいかないんだ。ちょっと場所を変えて話そうぜ?」
私に選択肢はなかった。








学校の反対側になる人気のない空き地。私は後ろで手を抑えられ、デブの前に立たされた。
「何の用ですか?」
わざと嫌味っぽく言った。
「仁藤には悪いが君にはちょっと痛い目にあって欲しくてね。」
そう言ったと共にデブはズボンのポケットから折りたたみ式のナイフを出した。
背筋がぞっとし、恐怖に溺れそうになる。けど、これで負けたら駄目だ。泣くものか、悲鳴をあげるもんか。

私は恐怖を押し込め、自由な足でデブの急所を思いっきり蹴った。
「っ・・・!!!」
「松本さん!!」
デブは痛みのあまりうずくまる。動揺した仲間の一人が彼に駆け寄る。
その隙に逃げようと思ったが振りほどこうとしても全く拘束から逃れられない。
「このアマ!!やれ!!」
デブが唾を飛ばしながら言う。私は押し倒され固い地面に頭を打つ。痛みのあまり自然と涙が出そうになった。
両手、両足とも押さえつけられ、全く身動きが取れない。

デブは不気味に笑いながら私のブラウスに手をかけた。
「なにすんのよ!!変態!デブ!!ブタ!!」
「あんだとぉ!?」
平手打ちを左頬に喰らい、ひりひりとした痛みがする。
びりびりと音がして上半身が涼しくなる。たぶんナイフでブラウスを切ったんだ。

怖い。

抑えていた恐怖がどっと込み上げ、完全に動く気力を失ってしまった。
我慢していた涙が出てきて視界がぼやける。もう諦めて、目を閉じた。
けれど、それよりも真っ先に思ったことがある。

嵐、助けて。

頭の中はそればっかりだった。 怖い、嵐に会いたい。助けて欲しい。
そう思っていたとき、急に押さえつけられていた力が緩んだ。そして馬乗りをされていたデブの重みが無くなった。

「凛花!!!」
泣きそうな高い声がした。聞いたことがある。
愛華だ。
けれど私は意識がぼんやりとしてしまっていて何がおこっているのだかよくわからなかった。
人を殴る音と、呻き声と、愛華の私の呼ぶ声が私に響く。

「凛花!!」
愛華とは違う、低くて、温かい声がした。私はこの声をよく知っている。

そう、嵐だ。

私は全身が脱力してしまい拘束がとれても動く事ができなかった。何故か声が出なく、目が開かない。
温かい腕が私の肩を抱き、上半身を起こしてくれた。
「凛花!!凛花!!!」
あまりのうるさい声に私が薄目を開けると顔を真っ青にし、酷く取り乱している嵐がいた。こんな顔初めて見た。
「・・・・・嵐・・・」
嵐はほっとしたのか幾らか顔色は良くなった。

「凛花!!」
愛華が私の顔を覗く。だんだんと意識がはっきりしていた。
「愛華・・・なんでここに?」
「走ってる時凛花が変な男子に連れて行かれるのを見て、校門にいた嵐君に教えて・・・・」
なるほど。
周りをみるとのびている男子生徒たちがいた。お腹の辺りがすーすーすると思って視線を下げたらほとんどブラウスではなくてボロ雑巾みたいになっていた。

「寒いだろ、これ着ろ。」
嵐が学ランを脱いで私にかけた。私は袖を通し、もう大丈夫と言って立ち上がろうとした。
が、立ち上がれない。
「・・・・ごめん、腰抜けちゃったみたい。」
私は苦笑しながら言うと嵐がおぶってくれて、愛華は部活に戻るといって別れた。





私の家の中まで連れてもらっている途中、嵐は一言も喋らなかった。
きっと、自分を責めているんだ。私が傷ついたから。
嵐は昔から私がいじめられていると助けてくれた。
まるでお決まりのヒーローのようにいつも困った時は助けてくれて、慰めてくれる事もあった。

ある日、私はそんな自分が嫌だと嵐に言った事があった。
嵐に頼って、助けられてばかりだ、と。
すると嵐は少し顔を赤らめながら言った。

『おれがいっしょうおまえをまもってやるからいいんだ。』

嬉しさと自分にはなにもできないと言う無力感に襲われた。
私は私も嵐になにかしたいと言った。

『じゃあずっといっしょにいろ。ずっとずっとおれのそばにいろ。』

その言葉が嬉しくて、私は笑って頷いた気がする。
もう嵐は忘れてしまっているかもしれないが、私は助けられているのでその言葉に忠実に従った。




私の家に着き、私はやっと立てて、玄関まで入った嵐にお礼を言った。
「ありがとう。また助けてもらった。」
嵐はいつものように眉間に皺がよっていなくて、寂しそうな顔をし、私を抱きしめた。
「ちょっ!??あ、嵐?!」
今日の朝のことも思い出し、私は体が熱くなった。
「・・・・・れ。」
「え?何?」
嵐はなにか小声で言ったが聞き取れなくて聞き返した。

「ずっと傍にいてくれ。もう、こんなことさせないから・・・・傍にいないなんてなんて言わないでくれ。」
酷く、弱々しい声だった。
「・・・・・嵐・・・・」
「・・・・・・・・。」
そんなこと言わない。確かに怖かったけど・・・けど、だからと言って嵐の傍を離れてるはずないじゃない。

「離れるわけないじゃない。だって・・・・私、嵐のこと好きだもの。嵐は・・・・?」
「・・・・!」
やっと言えた。嵐の返事が怖い。
嵐は私は引き離し、肩に手を置いて私を見つめた。
「そんなの、好きに決まってんだろ。」
優しく微笑み、優しく私にキスをした。幸せすぎて眩暈がしそうになる。

「嵐!」
私は思い切り嵐に抱きついた。
これからもっともっとお互いを知って、もっともっと微笑み合おうね。
そして、ずっと貴方の傍にいさせてね。




END.














甘っ!!!すいません、砂糖の量を少し(いや、いっぱい)間違えました。
最後の方が展開早くてすいません。あー、酷いなこれは(いつか蔵に入れなければ
不良を書きたくなって、ついでに前々から書きたいと思っていた「かっこいい親父」を書いてみたり。
・・・・全然かっこよくないしね!!(泣笑
けど国義さんはお気に入り。凛花を呼び捨てに呼ぶとことか、二人を温かく(?)傍観しているとこなど(趣味丸出し
タイトルは思いつかなかったので適当です。すいません。























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