「花見にでも行くか。」
私は撥を持つ手を止めた。必然的に三味線の音が止む。
ゆっくりと窓の方を見ると、窓の淵に肘を乗せてぼんやりと外を見ている男がいた。
男はあぐらをかいて、ぼんやりとした顔で外を眺めていた。
色素の薄い茶色の髪が風になびいて、純粋に綺麗だと思った。

「・・・珍しいですね、青山様がそんなこと仰るなんて。」
私は三味線を置き、彼に近づいた。
「青山様なんて気持ち悪ぃ呼び方するな。
ここは誰もいねぇんだから本当の名のレイでいい。敬語も使うな。」
彼は不機嫌そうに言ったが、空色の瞳は私の方は向いてくれない。

彼が普段つけているカツラが部屋の隅に転がっているのが目に入った。
髪と瞳の色さえ違わなければ、彼が日本人であることを疑わないだろう。
顔立ちは鼻も高くなく、日本人そっくりだからだ。・・・彼はあいのこなのだ。

「・・・・・どうかしたの?」
私は彼の隣に座って、一緒に外を眺めた。
外は真っ暗で、ぽつぽつと家の明かりがついているだけだった。

「別に。」
明らかにその言葉とは裏腹な態度だった。
彼は煙管をぶらぶらと銜えたままどこか遠くを見つめていた。

彼はどこか雲みたいな雰囲気を持っていて、掴み所がない。
彼がどんな仕事をしているのか、何歳なのか、知らない。
普段日本人を装っているときは皮を被っているだけで、
素顔は外みたいに真っ暗で、時々ぽつぽつと真実の明かりを見せてくれるだけだ。



「・・・朱里。」
「なに?」
彼はふと私の方を向いた。今日初めて私の方を見てくれたのではないだろうか。



彼の硝子玉みたいな薄い青の瞳が、私を真っ直ぐ見つめていた。

綺麗で、見惚れてしまう。



「・・・・なんでもねぇ。」
「・・・・そう。」
彼が何か迷っているみたいだけど、追求するつもりはなかった。

私は三味線でも弾こうかなと思って立ち上がろうとしたら、急にひっぱられて逆戻りした。
「どうし」
「ちょっと黙れ。」
振り返ろうとしたら顔を戻された。
何か後ろでごそごそしながら髪を触っている。
私はただ大人しく襖を見つめているしかなかった。

「・・・いいぞ。」
そう言って振り返ると彼は窓の方を向いてしまって顔が見えない。
一体なんだったのかと首を傾げたとき、しゃらんと何かが鳴った。


あ、と閃いた瞬間私はすぐに胸元から手鏡を出して自分を見た。


そして振り返ると、気のせいではなく照れてそっぽを向いている彼がいた。

「・・・レイ、」
「・・・・・なんだよ。」


「とってもきれい。ありがとう。」
静かに煙管を吸っているだけで、返事はなかった。


私はもう一度手鏡を覗いた。
髪にささっているのはまるでレイの瞳のような空色の綺麗な簪。

幸せで、とても嬉しくて、鏡の中の私は頬が緩めていた。



硝子玉







(今のままでいいよ)





























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